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迷宮は世界と共に  作者: 北落師門
第二章
115/141

「どうなってるんだ……」

「始まったばかり……明日を待ちましょう」

 相変わらず高層ビル群の中は彼等以外の気配がない。幾ら歩き続けても行き着く先は見当たらず……視界が開けたと思ったら、見覚えのある大通りに出た。

 壁面には目印の傷、周囲を見れば付けてきた目印がそこかしこにある。どうやら、堂々巡りをしているらしい--その事実に意気消沈し、そのまま暖を取ることにした勇者一行。重苦しい沈黙と徒労感に、移動するだけの気力も体力も奪われ、休む以外の選択肢を見いだせなかったのだ……。

                         ◆

(パパぁ--おかえりなさい!!)その日は7回目の誕生日だった。

 優しくて強いパパと優しくて怖いママ。よくわ分からないが、回りの大人からは過保護だと言われている。確かなのは愛されていることであり、彼女も両親が大好きだった。

 腕を振るったご馳走とバースデーケーキを前にパパの帰りを待ち、扉が開く音に堪らず飛び出すと--ビックリするくらいの大きな縫いぐるみが玄関を占拠していた。

(ただ今!よい子にしてたね?可愛い可愛い--!!!)縫いぐるみの影から蕩けそうな顔を出したパパと笑みを絶やさないママ。幸せな光景は--パパの足下が光った瞬間に崩壊した。

 ヴンッ!空気が震えたような感覚に襲われた後、パパの姿が消える。宙に浮いていた縫いぐるみだけが玄関に取り残され……永久にパパはいなくなった。

 ママはショックで倒れて精神を病んでしまい彼女は施設に預けられる。そして、8年の時を過ごし15回目の誕生日を迎えた日、彼女の足下が光ったのだ・・・。

†††††

「がはっ!」

 噎せ返る度に、大量の血が溢れてくる。四肢は鉛のように重くて感覚がなく視界が霞んだ。

 振り払おうと頭を動かして--ペチャリッ!額にねっとりとした何かの液体が落ちる。釣られるように見上げれば、血と人脂に塗れた刀の切っ先があった。

--敵意の代償は命、勇者に挑んだ愚かさを嘆くがいい--。

 感情の欠片がないガラス玉のような眼と声に彼は紛う事なき死を享受する--が、いつまで経っても何も起こらずあと僅かの命だから、手に掛けなかったのか?いずれにせよもう助からない……彼は意識を手放した。

「--諦めてはなりません」

「援護する!」

「行くわ--!!」

 風属性の魔法攻撃を先触れに、華奢な少女のグレートソードが閃く。傭兵が守るように左右に付き、突然の闖入者に驚いたのか動かない標的--人影に迫った。

 鮮血と共に横薙ぎにされ、グレートソードと刀がぶつかり合った。

 補正のお陰か、勇者は刀を弾き返したが……ぬるりとした液体に足を取られ、尻餅をつく。体勢を立て直そうとして、鼻の先に転がっている代物(モノ)に小さく悲鳴を上げた。

 鮮血で斑になってはいるが、見忘れることなくずっと探し求めていた、彼女の父親--篠頭勇司に酷似した生首だった。

--おお…ぉ、わあぁぁぁ……お--。

 その呻き声に振り向くと人影--殺戮者はがたがたと震え、嫌がるように首を振る。ピシャピシャと水音が鳴る度に独特の異臭が鼻を付いた。

--お。美織!わ、しの……美、織…おおおぉぉぅ!?--。

 無茶苦茶に刀を振り回し勇者に迫ってくるが、彼女は動けなくなった。

 殺戮者は転がっている生首とそっくりな--篠頭勇司の顔を持っており、彼女の名を叫んでいたために。「「!!!」」

 発光する障壁が殺戮者を弾き飛ばす。庇うよう立っているのは、同行してきた聖職者シャル・ササンだった。

--な…じ、邪魔をするなあぁぁ!?--。

「逃げなさい!抑え……っ!」

『思いの外、持った--至高の方がお待ちだ』

 勇者--美織は、切り裂かれた聖職者シャルを着ぐるみか何かのように脱ぎ捨てた存在と、変転する展開に混乱する。殺戮者と遜色のない体躯の存在は、彼女が最も大好きな笑みを湛えていて……。

『行きなさい』

 その囁きが耳を掠めた途端、彼女の意識が視界と共に閉ざされた・・・。

  


 


 

 

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