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迷宮は世界と共に  作者: 北落師門
第二章
112/141

『その恐ろしいものを納めてくれぬか?物騒で話も出来んぞ』

 廃墟群の主を名乗る魔人シャリ・アハは、族王アファ・サムの姿のまま苦笑する。その人間臭い仕草に、族長フロリネフの警戒心は更に強くなった。

「人でない存在(モノ)が真実を述べるのは稀だ、アトラールの主ならば尚の事……汝の手の内に在るからといって従うと思うのか?」

 険しくなる眼差しにシャリ・アハの苦笑は深くなった。

『信用できぬのは仕方ない。が、敵ではないぞ?此度の異変には我も困っておるのだ、“理”に誓って言うが、な--アトラールはシャン・ディーアルの暴走を抑えるために存在するのだ』

                          ◆

 ガドル・パーディアの直中にある高層ビルを思わせる建造物の連なりは、明確な名を持たぬまま魔王不在となり、急速にクルヴァーティオ化が進んでしまった迷宮の残骸だった。

 砂漠の動植物は魔獣化・変異し、残骸のそこかしこに潜む。誰の手にも負えず事態は急速に悪化していき--手順を踏み、“理”に沿って勇者は召喚された。

 そして、クルヴァーティオを浄化し新しい魔王となった。のだが……約束が違うと激昂し望まぬと、自ら命を絶とうとした。

 しかし……世界に満ちる余剰魔力を糧とする魔王は、自殺が出来ない。又、勇者以外に魔王を殺せる者は存在しなかった。

 それゆえ、彼の魔王は暴走する。糧として得た魔力--素養が、激情と共にガドル・パーディアを襲った。

 元の世界に戻れぬ、戻ったにしても時間が経ちすぎて戻る意味がない……絶望が理性を失わせたのだ。

 破壊され倒壊する高層の建造物、襲い来る衝撃波と砂津波は何もかもを呑み込んでいく。逃げることも止めることも出来ず、砂漠を生活圏とする誰もが死を覚悟する。が……シャン・ディーイー--最高位の魔王が力を振るったことで免れた。

 憑き物が落ちたかのように、魔王ファウダ・ウルティオは廃墟と化した砂漠の直中に迷宮フスーフィリ・カルクルを構築し、半ば引き籠もるような形で管理している--そう、魔人シャリ・アハは告げた。

『……喉が渇いた。水を分けてくれないか?』

 ヴァスリーサ・マクルを奪還したことで困らなくなったとは言え水は貴重品。勇者美織のクルヴァーティオ浄化がどれ位掛かるかは分からない……それに加えて、目の前にいる相手は魔人だった。

 が、族長フロリネフは革袋を躊躇わずに渡した。

 人であろうとなかろうと、サウファ・アーレムの住人にとって“理”は絶対不可侵。誓約を覆すことは禁忌であり、最大のペナルティーとなる……目的は分からないが、目の前の魔人シャリ・アハは少なくとも敵ではないのだ。

『良いのか……命綱だぞ?』

「今更だ、覚悟は出来ている……っ!」

『--族王アファ・サムにも劣らぬ、実に愉快だ。水はいい、先を話そうか?』

 一頻り哄笑するのは族王アファ・サムではなく、彼--“砂塵の鷲”族長フロリネフ・サクルだった・・・。




 


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