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迷宮は世界と共に  作者: 北落師門
第二章
109/141

「ふむ……肝が据わっているな。奴隷ではなく我が息子となれ」


 定住した隊商氏族によって興された青王都ディアルトは、ヴァスリーサ・マクルを支配下に置いたことで、急速にその勢力を拡大させた。が、代替わりした族王によるところが大きかった。

 彼の族王は貴賤を問わず逆らう者を捕らえ、過酷な人倫に反した運命を課した。 

 成人以上の男性ならば闘技場(コロセオ)に、子供ならば奴隷や歪んだ嗜好の貴族や商人に売られ、女性は慰み者となる。見せしめの意味が強調されたそれらに、逆らおうとする者は民人自身の手で亡き者となったのだ……。

「--これは、血か?」

 王都での商いを終え家路に着く一行が見つけたのは、5つの屍体……珍しく風が止んだ砂の上に転がっていた。

  何れも冒険者ではなく砂漠の民でもない。身に付けているのは寄せ集め着崩した軍服で、腰に吊されている短剣の印章が職業を明確にしていた。

「奴隷商人だ……未だ、新しいな」

 粘つく血糊はそう時間が経っていないことを教えている。見回すと小さいがオアシスが近くにあり、止んでいた風が吹き始めた。

 巻き上がる砂塵が屍体を瞬く間に覆い、一行はオアシスに向かった。

 大人5人を殺すだけの技量を持つ相手に油断は命取りになる--シャムシールを抜き、タイミングを計り突入する一行だったが、唖然となった。

「こちらは駄目だ。こっちは--!」

 得物を鞘に収め泉の側に屈む。横たわる女性は既に事切れていた。

 その傍らで蹲るようにいるのは--手を伸ばそうとして、咄嗟に鞘ごと攻撃を受け止める。大人の半分ほどの手に握られているのはダガーだった。

 憎しみと怯えに彩られた眼差しに、砂漠の民“猛き角蛇”族長ヴェロナ・フィディは感心した。

 抜けるように白い肌は、ガドル・パーディアには存在しない。女性は褐色の肌を持つ砂漠の住人である以上、母子ではないのははっきりしていた。

「剛胆だが未熟だな」

 腕の一振りで弾き飛ばされ意識を失った少年を軽々と抱え家路に着いた……。

                         ◆

 族長ヴェロナは自分が拾った少年の扱いに悩んでいた。

 幼くとも身を守ろうと対抗する術を持つ少年は、彼の子供達よりも秀でている。長い手足を生かした剣術は、その外見から油断すれば命取りになりかねず、何事も飲み込みが早かった。

 折しも砂漠の民はヴァスリーサ・マクル奪還の気運が高まり、青王都族王ロデ・ケイサルを取り除く方法を模索し……奴隷として扱われる少年アクト・クラトルに白羽の矢が当たった。

 女装すれば疑う者は先ずいない。族長ヴェロナは5年余りの間に息子同様の思いを抱いていたが、民のためだと感情を押し殺し、攪乱を目的とした刺客として彼を青王都に派遣することにしたのだった・・・。



 

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