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迷宮は世界と共に  作者: 北落師門
第二章
108/141

王都崩壊

「何故だ--余は、砂漠の盟……」

 最後まで紡がれることなく、科白は永久に途切れた。

 支配者の証である黄金と宝石で造られた王冠は、断罪者の足下に転がった。

 断罪者の視線が王冠に注がれ……躊躇うことなく踏み付けられ歪む。落胆の溜息と憤怒のざわめきは、獰猛な肉食獣の如き視線に凍り付き霧散した。

 支配者者に阿り、媚び諂う者達は身を縮ませた。

「民人を顧みらず享楽と退廃に溺れた……幾多の冒険者の命を弄んだ愚王の証など、誰が欲しがる?」

 明白な嘲笑を湛え、力を増した踏み付けに王冠は軋んで完全に拉げてしまった。

「悉く破壊しろ!完膚なきまでに消し去れ--焼き尽くすのだ!!」

 冷酷無比な命令は、彼の忠実な配下によって迅速に行われ--ガドル・パーディア随一と謡われた青王都(ディアルト)は、族王ロデ・ケイサルの崩御と共に砂の海に沈んだ・・・。

†††††

--世界暦2191年、夏季7月の始め。

 ガドル・パーディアは類を見ない魔法禍によって変貌しつつあり、砂漠を生活圏とする誰もが日々の糧、日々の仕事、日々の営みを守ろうと……隣人だけでなく、身内にさえ不信の目を向けるようになった。

 富める者は自らが雇った者の手に掛かって財を失い、貧しき者は更に貧しき者を虐げる。糊口を凌ぐために盗み殺す者もあり--法と秩序は崩壊したに等しかった……。

                            ◆

「もはや……都として成り立ちません」

 その報告に老王カディスは玉座に深く沈んだ。

 砂王都アディリザは、ガドル・パーディアにおいて、定住を望んだ砂漠の民が興した最古の都と位置づけられている。又、勇者召喚の儀が行える唯一の都でもあった。

 過酷な砂漠を生活圏とする人々は、フスーフィリ・カルクルと聖域ヴァスリーサ・マクルを拠に日々を過ごし……変わり種の隊商氏族が、砂漠の直中に都を構えるまでは平穏と言えた。

 偽りと武力によって聖域を奪われて以降、砂漠の民を名乗るのは1部族のみ。アディリザも、砂漠の生活を知らぬ世代が6割を占めるようになり、街の民と揶揄されるようになった。

 そこへ魔法禍が襲い掛かり、期せずして勇者が召喚されたことで、都の誰もが尋常ではない事態に気付く。宰相ノーマに命じて国庫を解放させ、民人にいつも以上の節制と秩序を守るようにふれを出すと、都を捨てる準備を促した。

 間諜によれば青王都ディアルトは、族王ロデ・ケイサルが享楽に耽溺ばかりのため、無法の都となったらしい。アディリザは兆しすらないが、民人の流出が止まることはない……そして、宰相はついに都としての機能を失ったと知らせてきた。

「勇者の成否に限らず決めたことだ……皆ご苦労であった」

「我等は最後までお供いたします」

 宰相以下残った僅かの臣下は誰1人退室しない、最後の時まで共に在ることを望み……重苦しい静寂が満ちていく。が、突如として蹴散らされた。

 近付いてくる複数の足音は乱れることなく揃い、扉の前で止まった。

 重々しい音を立ててゆっくりと扉は開き……王の間へ入ってきたのは、酷薄そうな眼差しの青年だった。

「不躾をお許し願いたい。吾はアクト・クラトル--“砂塵の鷲”族長フロリネフ・サクルの養子にして次期族長。御身と仕える方々の護衛として伺いました」

 洗練された所作で最大の礼を取る青年を、砂王都アディリザ最後の王カディス・ロウゲは唯々見つめるしか出来なかった・・・。 

 


 

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