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迷宮は世界と共に  作者: 北落師門
新章
105/141

「私めは青王都ディアルトより派遣された聖職にございます……部族長フロリネフ・サクル殿ですね?」

 ガドル・パーディアに点在する、聖域であり水源のヴァスリーサ・マクルに次いで大きいオアシスに、聖職者シャル・ササンは“砂塵の鷲”を尋ねる。目的は、勇者の人となりと実力の把握。砂漠の民の動向とフスーフィリ・カルクルの状況を知ること……とある事情から敵対関係に等しいため、不興を買わぬように彼は殊更ゆっくりと平静な声音で挨拶をした。

「--今の砂漠をどう思う?」

 急に問い掛けられ戸惑った。

「正直、分かりかねます。確かなのは尋常ではない“何か”が起こっていて……勇者が召喚されたこと」

「そう“何か”が起こっている--」

 促され天幕に入ると、明らかに場違いで異質な少女がいた。

 度肝を抜かれたのは不釣り合いなグレートソードが、傍らにあること……。

「ゆ、勇者殿ですか……?」

「--そうだ」

 ガドル・パーディアの大部分を手中にした青王都ディアルトと違い、砂王都アディリザは定住を望んだ砂漠の民を祖とするため歴史は古く、勇者召喚は彼の都の専売特許だった。

 前回は明確な理由で--今回は理由そのものがはっきりとせず、勇者が召喚されたという事実があるに過ぎない。勇者とは名ばかりの……偽物の可能性も否定できず、本物か確かめる意味もあってシャルは派遣されたのだ。が……。

 頬が引き攣るのを抑えられない。ちらりと流された視線は、獰猛な肉食獣を思わせる程の覇気に満ちており、見た目こそ少女だが……侮ってはいけない存在なのは明白だった。

 目を瞬かせ何度もツバを飲むシャルは、視線が外されたことに思わず安堵の息を吐いた。

「最短で、アトラールへ向かう道を考えている--知恵を貸してくれ」

 頭を下げられシャルは更に戸惑う。砂漠の民はヴァスリーサ・マクルに滞在する3ヶ月を除けば、移動生活をしている。交易を生業とする隊商氏族と異なり、彼等はガドル・パーディア一帯を生活圏とするのだ。

 定住--街の民との関係は、最低限の交易しかしない隣人。ヴァスリーサ・マクルが青王都ディアルトの管理下となったことで、隣人は明確な他人となり……族王ロデ・ケイサルに代替わりしたことで更に敵対関係となった。

 だから、非常事態とは言え“砂塵の鷲”を束ねる部族長が頭を下げるなど信じられない。罠か……とも考えたが、リスクが大き過ぎた。

「……頭を下げられるとは思いませんでした、よ。深刻なのですね?」

 重々しい頷きに彼は腹を決め席に着く。一心に地図を眺める勇者--異質な少女を気にしながら・・・。

 


 

 

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