3
「ファハ・フローロ--蜜毒の妖樹が残ってるなんて……」
かつて在った迷宮のクルヴァーティオ化は、多くの動植物を変異させた。
砂漠固有の生き物は魔獣化し、魔獣化しなくても凶暴巨大化する。数少ない植物も変異し、その中の1つが遭遇した--樹と言われるが、実際には着生蘭。エロエ・ハエレティが焼き払い、駆逐したと言われていたのだが……。
ごうごうと音を立て火の粉を撒き散らしてファハ・フローロは燃える。樹脂が焼け焦げる臭いに、生き物を焼く臭いが混じり、風に吹き払われることなく漂う--路地を曲がり臭いから遠ざかった一行は、改めて少し開けた場所で一夜を過ごすことを決め、魔道具の結界に布置結界を重ねた。
犠牲になったレヴェオには悪いが、彼がいなければカターク達も仲間入りしていたのは間違いなかった。
「以外に残ってるね?補充ができないから助かった」
レヴェオが属していたパーティーの所持品は、喰い繋いでいたのが本当らしく食糧の類いは底をついている。しかし……薬草・傷薬・ポーションなどの回復系は予想よりも多く、魔道具類もそこそこあり彼等は安堵した。
「これは……」
所持品を一つ一つ確かめていると、封をされた羊皮紙が見つかる。持ち主はいないのだからと開いてみた。
作成途中だったのか空白が多いが、単語や目印らしい記号からこの廃墟群の地図らしかった。
「迷わずに行けそうだなぁ!」
「憑きが味方してるよ、絶対--」
一気に勢いづく“豪腕の獅子王”は、冷徹なまでに冷ややかな眼差しが彼等を見つめていることに気が付いてはいなかった・・・。
†††††
--世界暦2191年 夏季6月。
「……どういうことだ?」
青王都ディアルトの族王ロデ・ケイサルはその報告に驚きを隠せない。ガドル・パーディアの先住民とも言える砂漠の民は、建国王セレバ・ケイサル--族王ロデ・ケイサルの父親によって当時の族王を殺害されたため、5つの部族に分断された。
聖域とされていたヴァスリーサ・マクルを取り替えさんと戦いを挑むも返り討ちに遭い、残っているのは1つだけ--フロリネフ・サクル率いる“砂塵の鷲”。最も、一家族十数人しかいないが。
「勇者が召喚されたとは信じられん!フスーフィリ・カルクルは、あの通り変わらず存在しているのだぞ?」
王城から砂漠へ目線を流せば、廃墟群は常と変わらず存在していた。
変わったのは、吹き渡る風が途絶え砂の大洋が只の砂漠になったこと。生き物の気配が消滅し、静寂に満ちた変化のない景色になったこと……。
「召喚は間違いありません。そう遠からぬ内に、勇者が登場すると思われます」