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「ガドル・パーディアに関しちゃ、“転移者”占札師アヴ・グリスタの右に出る存在はない……前世持ちでね、フスーフィリ・カルクル攻略に赴いて生還出来た連中は、皆彼を雇ってた。年端もいかない幼子さえ知ってる話さ--運に見放されたなぁ」
成り行きで臨時メンバーにしたレヴェオは盛大な溜息を吐いた。
(貴方達は私を望んで雇った--そして、雇われた以上は、無事に帰還させるのが私の役目です。いかなる理由があれ、ガドル・パーディアを行きたいのなら従ってください)青王都ディアルトを出発し、廃墟群に最も近いオアシスまで3日掛かった。
フラウ曰く自分に任せれば2日で来れたと告げられ、わざと遠回りしたんじゃないかと詰め寄ったときの科白は、受け入れがたかった。
そこに持ってきて、砂漠の異変を知らされ、引き返すのだと思って我慢できずに命を奪ったのだ。
レヴェオの科白を証明する術はない。だが……青王都ディアルトで得た情報や人々の様子を思い浮かべれば、話半分にしても迷宮攻略に欠かせない存在だったのは推測できた。
臍を噛む思いを抱きつつ高層ビル群を進む一行。《気配探知》《魔力感知》で周囲を探るが何の反応もなく、耳に付くのは彼等一行が立てる音のみだった……。
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「……静かすぎるな」
何の収穫もないまま夜を迎えた一行は仕方なく休むことにする。耳を澄ましても、彼等以外の音は聞こえなかった。
「ん……?」
(いい匂いがする)誰ともなく濃密な甘ったるい芳香に気付き、意識する間もなく彼等は柔らかく暖かな空気に包まれる。微睡みに浸りつつ至福を味わうような感覚が、ゆっくりと蝕んで……グギャァァッ!絶叫に我に返ったカターク達“豪腕の獅子王”は、目の前の光景に頬を引き攣らせた。
いつ移動したのか、彼等がいるのは広場だった。
ネチャ……ドロリとした液体の感触が足裏にある。濃密で頭の芯が霞みそうになる甘ったるい芳香は、夜気をものともせず咲き誇る大輪の極彩色の花が、花芯から滴らせる蜜だった。
大人の腕ほどもある根をを絡み合わせ立ち上がるようなそれは、魔獣ではなく魔力によって変異した植物--その周囲には蜜に摂り込まれ樹脂に閉じこめられた、砂漠の生き物や冒険者らしい人間が無造作に転がっていた。
パキッ!ピシッ!何かが固まるような音が響き、吐き出されるようにして転がったのは、驚愕と苦悶の表情を貼り付けたレヴェオ・ジュール……彼は樹脂の塊と化していた……。