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「あの、似非野郎ども……何が、“英雄”だ」
ヴァルクが毒づいた。
彼自身を含め一行はそれぞれが呼称を持っている。それは冒険者という職業においては、実力の証でもあった。
1人でもいれば、そのパーティーは実力があると一目置かれる。だから、ヴァルクが属しているパーティ―は、全員が呼称を持つだけでなくパーティーとしても優秀で、“英雄”候補の筆頭に挙げられた。
それがある時を境に候補から外され、パーティー名を取り上げられて名無しになった。
「仕方ないわ。あたし達が甘かったの……」
「連中は中身は兎も角、見栄えが良かったからなぁ……騙されもするさ。今や“英雄”様だ!」
ジンシィが吐き捨てた。
「過ぎたことだ……新たな名を得ればいい。迷宮は幾らでもある」
ヴィクトールの言葉に再起を誓い、小さな依頼からコツコツと積み上げて、随分と知られるようになった。だが、名無しであるのは間違いなく、大きな依頼を得るためには、新たな名が必要になるのは明白だった。
「――スェターナ・サート? 聞いたことがないな」
「アルヴァロ・マーロの新しい迷宮だよ。耳に挟んだ話じゃ風変わりで奇妙らしい……ギルドが対策に乗り出したんだ」
ヴィクトール一行に話を持ち込んだのは、元冒険者のギルド職員。現役時代にパーティーを何度か組んだことのある友人で、“英雄”の被害者の1人だった。
「対策?何だそれ?」
迷宮は魔王によって管理され、ギルドであろうが国であろうが人が関与する処ではない。迷宮に命を掛けて赴くのは、常に人の方なのだ。
「……呪いの品で被害が出た。出所がそこらしくて、攻略メンバーを募ってる」
「そんなの珍しくもないわ、戦う気なの?」
「“英雄”に依頼を出したって話もある――正直、熱くなってるのはギルド長だけさ」
「それで、話を振ったのは何故だ?」
職員は口ごもるがヴィクトールの真っ直ぐな視線に溜息を付き、これまでの経緯を話し始めた・・・。
†††††
“英雄”――ずば抜けた実力を持ち、アトルバスタに在る迷宮を攻略した者が得られる称号を指す。
だが、本当にそう呼ばれる冒険者は片手で足りる程しか存在しない。そのため、ギルドはAランク以上で明確な呼称を持つ冒険者を“英雄”候補と見なし、アトルバスタに報告するようにしていた。
ヴィクトール一行が候補から外され、パーティー名を取り上げられたことが喧伝されたのはスケープゴートのようなもので、この時に他の候補も選択肢から外された。
パーティー名は取り上げられなかったものの、待遇が悪くなりその責任を取る形で、ギルドは人事が一新された。
今のギルド長はそのときに就任した男で、アトルバスタに新しい“英雄”候補を推薦した張本人だった。
他の候補がいないため“英雄”と見なされたが、アトルバスタの迷宮攻略は実現していない。ギルドが依頼を直接持ち込み、その対応に追われているのが理由らしい。しかし、他の迷宮を幾つも攻略した実績に加え、他に候補がおらず“英雄”と見なした結果を踏まえ、アトルバスタの王に即位することが決定した。
そこに今回の事態が持ち上がったのだ。
「俺としては、あんたに攻略してもらいたい……俺以外にもそう思ってるやつは結構いる。“英雄”に先駆けりゃ新しい名じゃなく、取り戻せる……俺には無理だが、あんた達なら――」
†††††
「全滅の可能性もあるが、覚悟はいいか?」
ヴィクトールの呟きは全員の意思でもあった。
それぞれが思いを秘め態勢を整える。魔道具の結界を破壊すると、忽ち生臭い空気が満ち……眉を潜めつつ粘液の痕を辿って怪物との決戦に向かう一行だった――。
方向性が変わってきた、かな?




