コーヒーとの不毛な関係の仕方
深夜、アパートの一室で、カタカタとパソコンを打つ男の姿。彼の傍らには薬局で安く売ってあったカフェオレの容器がある。
しかし、彼、実はコーヒーは苦手なのだ。
実家で暮らしていた時には紅茶のパックが常備されており、何か飲み物をと思う際には自然にその紅茶を飲んでいたためだろうか。コーヒーとまともに出会う機会は、舌がすっかり紅茶用になった頃に訪れた。
ニンジンが嫌いな子供が大人になって食べられるようになるのは、大体は慣れによる。
大人になった時に初めてニンジンと出会ったなら、きっと食べられるようになるのは中年になるあたりだろう。
つまり彼は、年齢的にもう大人であり、コーヒーとの遭遇率が高いにも関わらず、その味に慣れるには髪の毛に白髪が混じる年まで掛かるのだろう。
それでも、苦手であっても、青年は時々カフェオレやカフェラテ、本当に珍しい時にはミルクすら入っていないコーヒーを自ら口にする。
何となく、飲みたくなるようだ。
しかし飲み終わると顔をしかめる。苦手だから。
たちが悪いのは、飲み終わるまでは至って普通に飲めるという事。彼に襲い掛かる後悔はなぜかいつも、全て飲み終わった後にだ。
今もまた、パソコンをカタカタ鳴らしながらしかめっ面をしている。
容器は既に空っぽだ。
深夜の眠気を飛ばすため、というわけじゃない。彼にとってはカフェインの効果なんて少しも及ばない。現に、ついさっきも大あくびをした。だいたいカフェインなら紅茶でもいいのだから、やっぱり眠気覚ましのためじゃない。
好きというわけでももちろん無い。
コーヒーを強要されたのでもない。完全にプライベートな時間と空間なのだ。
青年は思う。口直しに何か飲もう。
男とコーヒーの不毛な関わり方は、またしばらく経った頃に繰り返されるのだろう。