第1写 ちゃぶ台と湯呑とCF
「ふう」
畳の部屋に、ちゃぶ台一つ。
典型的と評されるが、実際のところあまり見なくなったニッポンの家庭の風景。
ちゃぶ台の上には、これまた「典型的」な急須と湯呑と茶請けのせんべいが載っている。
そのちゃぶ台を囲むのは、ジャージ姿の男と、よくみると少し年季が入っているが、どこか高貴な雰囲気を醸し出す和装を、当たり前のように着こなす女性だった。
(年季が入っているのは和装であって、本人ではない。絶対に。重要です)
先ほどのため息は、ジャージ姿の男のものだった。
男、と言っても、年齢的に20になるかどうか、ギリギリ少年という感じ。
湯呑に注がれたお茶を呑み、「ふう」と一息またいれて、次に茶請けのせんべいに手を伸ばして、バリバリボリボリ喰いついていた。
「で? 此度の首尾は?」
和装の女性がポツリといった。
畳の上にちゃぶ台の部屋。和室であり、女性は和装。だが、何処と無く違和感があった。
この女性は本来、板葺きの床に茵を敷いてその上に鎮座ましましている方がふさわしいのではないか?そんな雰囲気を全身から醸し出していた。
「ホイ」
男は返事とも言えない返事と共に、一つの黒い物体をちゃぶ台に置く。
厚さは2ミリ程度、縦横3センチ位、やや横が長めの四角形。
よくみると、その薄い側面の一辺に無数の小さな穴が空いている。
それは、CFカードだった。
上面には16GBの文字と、何やら達筆な筆書きがされた紙片が貼られている。
CFカード。それは、主にデジタル一眼レフの記録媒体として使用されている。
コンパクト何ちゃらとも呼ぶが、それは商標なのでCFと呼ぶ。
コンパクトなのに現在のフラッシュメモリの中では一番でかい。
色々とメンドくさいメモリである。
世に出た頃はもっと色々な用途に使われていたし、カメラの記録媒体は大体CFだったのだが、SDカードの高性能化、さらには小型化が進み、とって替わられ、今では一眼レフ、それも限られた機種でのみ使用されるまでにレア化してしまっていた。
(カメラ以外にも、機械の内部記録装置としてまだまだ使われていたりするが、一般人はまず見ないし気づかない)
とはいえ、現在一般的なフラッシュメモリの中では最古参であり、長く使用され続けてきた実績と経験値から得られた信頼性により、「限られた機種」、つまりは一眼レフでも高級機といわれるものには採用され続けている。
撮影したはずが記録されていませんでした、というのは本当にシャレにならないのだ。
「どれ」
和装の女性はそのメンドくさいものを手にして、両手で包み、目を閉じる。
「おるの。オナゴ一人に猫三匹か。こんなものかの」
和装の女性はCFカードを両手に包んだまま、おもむろに、そう、呟いた。
お読みいただきありがとうございました。