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去り者の日々  作者: Shkmn
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06-たくみの、こころくばり

「シュー」

「ルーカン、その声真似は何?」

「イメージは、緑の四足?」

「フローレンス惜しい。直立四足歩行する、腕無しの緑だ。自爆する」


 武器庫で感じた死の予感を誤魔化すべく、開幕前にジャブを入れてみた。カイウスが冷たい。十五歳で男の子の反抗期だろうか。フローレンスはこんなにかわいいのに。

 ――どうやれば緑のヨツアシとか読みとれるのかはさっぱりだけど。

 ――そもそもこの声真似も、なんの事だか自分でもさっぱりなんだけど。


「まあ、いいや。模擬戦やろうか。死にたくないけど」


 思わずこぼれた本音に、子供達が首をかしげる。ああ、うん。わからなくてもいいよ。でも、ホント気を付けてね? 人体って結構あっさり壊れるからね!? ホント死ぬ時は死ぬからね!?


「身体、ほぐさないの?」

「十分な環境で戦える事って、多いかな」

「――了解」


 二人の顔つきが変わる。ラウンズ達に共通の表情、口元が笑った無表情だ。結構怖い。


「それで、ぼくが先? それとも――」


 カイウスが目線だけで続きを語りかけてくる。言葉数が減っている。これも教育の成果か。


「いや、そろそろ基本的な段階は終わったし、二人まとめてやろう」


 あ、二人がすごい嫌そうな顔をした。二人の力量を下に見ているわけじゃないんだけど、まぁ普通はそう見るか。うん困った。でも教えないのも教育。どうせ、終わるころには嫌でも気付く。


「さて、始めるよー」


 相手を緊張させない日常の声音で開始を告げ、そのまま普通の歩みで距離を詰める。普通の、相手が緊張できないリズムで。


「「……え?」」


 子供達が、揃って戸惑いの声を上げた。そりゃそうだろう。訓練相手の「敵」が、いつの間にか民間人になって、こちらの間合いに入り込んでいるのだから。


 殺気――敵対者特有の不自然さの総体――の源を一つ一つ隠せる相手も、君達はいずれ相手取らねばならない。この分野の技術は、一度暗殺されてみないと必要性が身にしみない。だから、俺側の万が一を避けるための二対一。そろそろ気付いているだろう。


 教育成果なんて余計な雑事を頭から追い出しながら、右手の剣を右手に居たカイウスへ突き込む。

 ある程度薄く細い剣なので、切られ慣れしていないと立体感の乏しさゆえに距離感がつかめない。それが突きの怖さだが――そりゃあ、かわすよね。下手に剣で受けて、逆にからめ捕られる可能性を避けた判断に花丸をあげたい。俺が肘と手首に遊びを残してた事に、ちゃんと気付けるようになった証拠だ。

 回避した動きのまま、踏み込んだ俺の側面にカイウスが回り込む。フローレンスが合わせるように動いて、俺を左右に挟み込む形になった。こうなると、突き込んだ右手が危ない。フリーの左手は、腰の短剣をいつでも抜ける。

 一切のサインも無しに、不意打ちからの対応で合わせられるようになっている。だけどね――


「そこ、少しずれてるかな」


 フローレンスの斬りかかりが、僅かに早い。それに振り下ろしはいけない。防御用に抜いた短剣で横合いから斜め下に叩き落とすと、勢い余って地面にぶつかるから。

 防御の動きで振った身をそのまま回し、回転の動きに合わせたステップでフローレンスの斜め後ろに滑り込み、短剣を突き立て――られないので、手首をひねって手の甲を軽く当てる。抜く時間は無いので、短剣は刺し捨ての扱いで地面に弾き落とし、刺された硬直を再現しているフローレンスの背中に短剣を握った手をあてたまま鞍馬の動きで身体を跳び超え、一瞬で位置が動いた俺に合わせようと踏み込み直したカイウスの斜め前に身体を弾き飛ばす。フローレンスを跳び超えかけていた位置への踏み込みなので、ここは近すぎる。つまり、斬れない。

 着地の勢いで片足を振り上げ、膝を曲げる。踵が、カイウスの後頭部――頭蓋骨のくぼみ――に引っかかった。軽く押すように力を込め、カイウスに知らせる。

 瞬時にカイウスがガクンと下を向き、倒れた。


 これで終了。ひとつ残らず、今まで二人には見せてこなかった類の技。さて、どう反応するかな。

 倒れていた二人が起き上がりながら服のほこりを払い、じとりと湿ったまなざしを向けてくる。え?


「えぐい」

「ひどい」

「大人げない」

「迷いなく殺す技ばっかり……」


 その通り、フローレンスは膵臓への刺突。跳び超える際にかなりの力でえぐられるため、その時点で絶対に助からない。カイウスも後頭部に引っかけた踵によって首の骨と頭蓋骨を外されている。実際はある程度圧迫することで首の骨も砕くため、これまた助からない。


「て、いうかさ。ルーカンって――」

「ひょっとして、殺す専門の人?」


 まぁ、触れれば終わるような速度で確実な殺し技を放てば、予想はつくだろう。


「え、うん。所謂職業暗殺者だね。元々軍属でブイブイ言わせてた」


 正直、この手は血まみれだ。恥とは思わないが、誇れるものでもない。だが、暗部から目を背けることも、許されない。


「今までこの技を見せなかったのは、基礎訓練で余計な癖を付けさせないため。ってことでいいのかな」

「今回見せたのは、想定する戦闘パターンに偏りをなくすため。あってる?」


 ああもううちの子達はかしこくて、教え諭す手間が省かれすぎる。そのうち逆ネグレクトというか、育児不可能とか起きそうだ。保護者らしくお世話させてください。


「完璧。これで、君達は自分以外の誰かが居る限り最低ラインの警戒をとけなくなる。それに、民間人を先制攻撃で斬殺する状況も想定の範囲内に入れた。余りにも多すぎる人体急所を守る発想が無力だとも理解した。なにより、ヒトの警戒をすり抜ける技術を知った」


 どれもこれも、暗い世界の技だ。どれもこれも、明るい場所にいるラウンズに対して振るわれる技だ。

 皮肉な話ではあるけれど、俺が教えうる中で最も忌わしく、最も価値のある技でもある。

 だってのに、この子達はあの動きのうち、どれを取りいれようかと真剣に考えているのが、顔でわかる。釘を刺さないと、暗殺剣を使うラウンズを産んでしまいそうだ。


「止めに使った一連の技や動きはあまり真似しないように。王道の動きじゃないし、剣士としての立ち回りが淀むから。最初の踏み込みとか、カイウスの前に飛び込んだタイミングの測り方とかを教えるから、そっちを応用するように」

「「はーい」」


 嗚呼、暗殺剣使いのラウンズが生まれるのを嫌ったが故にここにいるってのに、何故俺はこんな目にあっているのだろう。

え、バトル路線? いいえヴァイオレンスな日常系です

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