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去り者の日々  作者: Shkmn
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03-ようこそ、ただいま

 人体は、偉大だ。


「お帰りなさぁい、ルーカン♪」


 何せ、自動的に車内に駆け込み、車掌に帰してくれと泣きついてくれる。


「何で、何でお前が居るんだ 頼む、頼むから帰らせてくれ。頼むから、頼むから……」

「だぁメ。お仕事でしョ?」


 今、俺は、震えていい。


「嗚呼、これが勤めか……」


 痛い、子供達の視線が痛い。だが、この状況がどれだけ辛いか、解っていただきたい。


「ラモラック。二年ぶりだね」

「ラモラックー。久しぶりー」

「フローレンスにカイウスも、元気そうねエ。ルーカスのとこでいじめられたりしてない?」

「全然。色々な事を教わったよ」

「ルーカン、優しいのよ」

「そう、それはよかったワ」


 なんというか、子供ってこういった奇人を受け入れる許容性が高いよな。ラウンズの感受性が良くも悪くも純粋だからという可能性も、否定はしない。


「挨拶はいいが、ラウンズの一人が誰も連れずに丸腰で出てくるってのは、ごたいそうだな。一般人に偽装したのがブチ壊しだよ」


 このカマ野郎。その一言だけは呑みこんだ。公衆の面前でラウンズを侮辱すれば、ラウンズはその相手を倒さねばならないのだ。そして俺は死にたがりではない。


「あらごめんなさぁイ。てっきり私服かと思ってえ」

「あと、その胡散臭い喋り方もやめてくれないか。普段通りで結構」

「そう? じゃあ真面目にやろうかしら」


 おかしい。自分で頼んだのに、真顔のこいつに果てしない違和感を感じる。違和感を感じるほど自然な化粧が施された顔のせいに違いない。真面目になっても女言葉なのは、生まれもった性向らしいのでどうでもいい。というか、どこまで本気かわからないので、考えるだけ時間の無駄だ。


「ひとまずの護衛と、アナタの転居先への案内ね」


 解りにくいだろうけど、ちゃんと武装してるノよ。その言葉に少し驚く。こいつは装備の秘匿所持を習得していなかったはずだ。


「驚いた? 驚いた?」

「驚いたよ。たった二年で凄まじいな。拳銃、ナイフならまだしも、気配で背負った長剣を消してのけるとは」


 だから、装備してる武器を洗いざらいバラして慌てさせるのは、驚かされた逆襲という事で。おお、慌ててる慌ててる。長剣をさりげない動作や態度で周囲の印象から消してのけるのは、普通は十年程度の訓練で身につける技術だ。なんて心臓に悪い。


「やっぱり、専門家相手にはバレるわね。ともかく、行きまショ」

「「はーい」」


 先入観なしで見ても、プロ相手に十秒程度はごまかせている。そう言ってやった方が、よかったろうか。いや言わなくても解っているだろう。ラウンズにもその方面の使い手は居る。


「俺、首都に家持ってるんだが。そこは駄目なのか?」

「そこでもいいけど、アナタの事だから他人の居場所なんか無いデショ?」

「……そういや、そうだった」


 ……黙っているべきは、子供達が最初から気付いていた事か。序列こそ最高と最低だが、最低の方は「なりたて」の暫定なのだ。揃いも揃って子供なのに、見ている世界が「違う」。


「ラモラック。武器、隠してたんだね」

「気付かなかったよ。警護のアピールだとばっかり」

「――!?」


 嗚呼。知識や人格では補えない、社会知による気遣いは、この子達にはまだ無いんだった。

 ごめんなラモラック。今晩は飲もう。二人きりじゃなく、手すきのラウンズ全員で、だけど。

 いやだってほら、怖いし。貞操的な意味で。

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