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去り者の日々  作者: Shkmn
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02-しょくごの、うんどう

「――動くな!」


 えー。今現在、この車両は目だし帽かぶった列車強盗に襲われている。そこそこな富裕層も乗り込むような車両なのに、よくもまあ銃器まで持った連中が侵入できたものだと、大変呆れてもいる。ちなみに、私はルーカンであってルーカスではない。何故皆様そう呼び間違えますかね。良いですか、俺の名前はルーカンです。強盗の方々は車両内に五名ほどですが、八両編成ですので八倍の四十名は最低でもいるはずだろう。実に迷惑な話だ。


「困ったね、フローレンス」

「そうね、カイウス」

「あー、そこ。顔が全く困ってないのを直しなさい」

「「ルーカスもだよ」」


 ああ、はい。多分思いっきり白けきった顔をしていると思います。

 何故に、首都まで後一時間三十分という凄くよろしくないタイミングでこれなのか。計画性が無いにもほどがある。


「いやさホラ、普通は俺達が乗ったあたりの駅あたりがちょうどいい開始地点で、そのまま首都に乗りつければ完璧じゃないか。なのに何を思ってこんなタイミングで――」


 思い当たった。厳重な警備のされていないそこそこの富裕層を相手に、車両自体を狙わずに行う手法だ。


「――ああ、身包みはいで都市に消えるのが狙いか」


 となると、一時間でコトを済ませ、車両から飛び降りたいといった所か。

 そうなると、目的地に無事に着ける公算が高い。とはいえ、景色を見たりまどろんだり本を読んだり子供達と談笑したりと平和に使う予定だった時間を奪った罪は重い。制圧しよう。


「二人とも、妙なことはせず、連中が近寄るまで待つように」


 連中の動きから練度と装備を見てとった子供達が、返事ついでに薄く笑った。


「殺す必要は、無いね」

「手足の関節を外せばいい?」

「たぶん、二人か三人が回収で、残りは監視だろう。回収が三人ならそれでもいいけど、二人なら痛めつけて悲鳴を上げさせるべきかな」


 悲鳴というのは便利で、同種の生物を委縮させる。ちゃんとした訓練を受けていない人間が素面のまま他人を痛めつけられないのは、そのためだ。


 三人揃って緊張感のない表情をしているのがいけなかったのか、強盗全員がこちらを見た。我々が今いるラウンジで、一番綺麗な身なりをしていたからかもしれない。

 そのうち二人がこちらに近寄りながら、片手をこちらに伸ばす。


「お前等、持っているものヲギャッ!?」


 セリフの途中で、強盗の一人が伸ばした手をかばうようなしぐさをしながら、どさりと倒れた。その手は、人差し指と中指があらぬ方向にへし折られている。ろくな悲鳴をあげさせない早技自体は素晴らしいが、この場においてはやりすぎだ。


「カイウス、指を折る時はもっと優しく折らないと」

「イギィアアアアアア!?」


 新しい悲鳴。もう一人も同様のあり様だが、手間をかけて折ったらしく、明瞭な意識を保ったまま悶えている。


「あー。お二人とも、もう少し慎み深くだね、痛めつける方がだね、良いと思うのだよ」


 近くにあったジョッキを掴み、未だ状況を理解していない残り三人のうち、リーダー格と思しき人物へと投げる。顔狙いは緊張を誘発して、対応される可能性がある。なので、実に心苦しいのだが、股間狙いだ。

 もう少し上でも良かったのだが、木製ジョッキの威力はたかが知れている。金的の心理的なダメージを上乗せしてやっと満足いく威力といったところだろう。


「ゴッ、ヲぉウ……」


 その場の男どもが、我々以外揃って青ざめるような音がした。いわゆる「ぶぢゅっ」という潰れる音だ。当たり所が良かったらしい。予後次第で宦官デビューできるんじゃなかろうか。この国にその制度、無いけど。

 それ以上一切の声を発すること無く、男が倒れる。股間のあたりから、ドボドボと血が出始めた。

 場の空気が、これ以上ないほど冷え込んだ気がする。強盗二人も、殺人鬼に睨まれた生娘みたいな目でこちらを見ている。俺が何をした。


「えぇと……」


 助けを求めて子供達に顔を向ける(その動作で強盗が本気で震えた。何故)。二人揃って他人の振りをしていた。なんと言う事だ。これが反抗期という奴なのでしょうか。いや違う。慎み深くのどうの言った直後に、よりえげつない真似をしたことに呆れているのだろう。


「だって仕方ないじゃん! 手近にあったので安全そうだったのこれしか無かったんだもん! 何だよ、フォークやスプーン投げろってのか!?」


 強盗が銃を捨てて壁に手をつき、こちらに背中を向けた。いわゆる降伏姿勢だ。何故に。

 残り三十五人以上いるはずなのだが、大丈夫なのだろうか。緊張感とか。

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