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去り者の日々  作者: Shkmn
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01-はじまり、はじまり

 ラウンズ。近代の動力革命以前どころか、ずっと過去の伝承をモチーフとした、優れた人物によって構成された小集団の呼び名だ。人数平均十五名。過去の戦争時は三百名にまで膨れ上がった事がある。選抜基準は単純明快。人格見識が優れ、卓抜した武勇を持つこと。

 彼等は真実一騎当千であり、敵からも尋常ならざる恐怖と尊敬を勝ち取っていた。

 今代のラウンズは十一名。これは、国王を含め十二名となる、最低の人数だ。そして、序列最高位と最下位の二人がある事件を境に姿を消して、既に三年になる。

 つまり、何が言いたいのかといえば――


「ルーカンー。ご飯!」

「ルーカンー。ご飯ー」

「……食堂車、いこうか」


 嗚呼。こんなお子様が、最高のラウンズと語り継がれる「丘のアルトリウス」に「傷のトリストラム」の末裔らしいとか、ほんとやめてください。どうみても普通のお子様じゃないですか。

「ルーカン、早く早く」

「良い席、無くなっちゃうよ」

「はいはい。急がなくてもご飯も席も無くならないから」

 子ども二人に手を引かれる。片方は十五歳の少年。もう片方は十二歳の少女。さながら俺は父親だろう。

 都市間を渡る鉄道の車内廊下を揃って歩いている間中、そんな視線を向けられていた。

 この二人が失踪したラウンズで、俺がその二人と血縁の無い人間だと知らなければそんなものか。

 普通なら誘拐等を疑われるだろう。だが、ラウンズは縁故や血統でなれる物では無い。間違いなくこの二人は見た目とは隔絶した武勇と知識、安定した人格を持っているのだ。誘拐できるものではない。扇動さえ不可能だ。

 食堂車に着くなりテーブルに腰かけ、笑顔で食事を注文する二人に、思わず溜息がこぼれる。この子達が、必要となれば眉一つ動かさずこの車両内の人間を縊り殺せるなぞ、誰が思うだろうか。二人がかりでなら、列車自体を一時間とかけずに制圧できるだろう。「必要」であるのなら、何の心痛も感じること無く、だ。ああ、胃が痛くなってきた。


「二人とも。首都に戻る勢いでラウンズに戻らないか。きっと楽しいぞ、俺が」

「ルーカンってば、冗談が上手ね」

「ルーカン。面白くない冗談だな」

「いや、冗談ではなくてだね……」


 つまりはそういう事なのだ。包み隠さず申し上げれば、子守という奴だ。

 ラウンズとの縁とか、あっても何もいい事が無い。養育費は出すから面倒を見てくれ。そんな事をラウンズの残り九人から頼まれれば、断れる筈がない。聖人じみた高潔な人間が九人まとめて頭を下げるとか、殺気叩きつけられるよりよほど胃に悪いということを、彼等は知らないのだ。


 ――・――


「全く、どうしたものか」

「どうしたのルーカン。相談にのろっか?」

「浮かない顔だね。お昼だけど、お酒頼む?」

「いやいや結構。贅沢な悩みは取って置かせておくれ。助けてもらっちゃ情けない」

「大丈夫そうだね。でも、悩みが煮詰まって動けなくなる前に、声をかけてよ?」

「僕達はまだ子供だけど、ルーカンを本気で心配してるんだから」

「ありがとう。困った時は頼らせてもらうよ」

「「うん」」


 嗚呼。こんな真直ぐな瞳に向かって「お前等をラウンズに叩き返す方法考えてた」とか、どうして言えようか。そこまで外道な大人では無いのです。

 配膳されてきた料理を、全員の分が揃ってから食べ始める。


「いただきます」


 三人とも白身魚のムニエルだ。素材となった魚はよく解らない。メニューを見ればよい話なのだが、子供二人が悪戯っぽい笑顔で離さない。

 やや高めとはいえ、そう豪華な物では無い個室を選んだことを意識したメニューを選んだが、なかなかどうしてちゃんとしている。よいシェフが居るのだろう。


「ねえルーカン、なんで安めの個室に安めのメニューなの?」


 少女――フローレンスが不思議そうな顔をする。言葉にこそ出さないが、少年――カイウスも表情で同意している。

 答えた方が良さそうだ。首筋を軽く指で叩く。俺の出身地では比較的ポピュラーな『密談』のサインだ。二人も応じて、テーブルを軽く指で叩いた。


「このあたりが、首都近辺で興味を引かない程度の裕福さなんだよ。これ以上なら金の臭いに人が引き寄せられる。個室じゃない方が良いけど、安全や君たちの正体を考えれば、ここが妥協点だろう」

「なるほど。出発前に服を買いに行ったのも、そのためだったんだね」

「その通り。設定は徹底しないと。イメージは地方の大商人クラスだけど、それっぽいかな」

「完璧よ。流石はルーカン」

「そうだね。こういう事、ホントに得意だよねえ、ルーカン」

「褒められてるのに、なんか嬉しくないのはどうしてかな」


 食事を終え、残った飲み物を飲み干す。子ども二人に配慮してか、杯の中身はどれも葡萄ジュースだ。誤飲防止だろう、何も言わないのによく気が付く。


「ごちそうさま」


 満足そうに眼を細める子供達に、思わずこちらが目を細める。俺、どんどん父性に目覚めてないだろうか。これはいけない。


「さて、あと二時間だったか」


 食堂車から個室に戻りながら、残りの時間に思いをはせる。二年ぶりの首都だが、何が変わっているだろうか――

インペリアルナイツ→サー・ランスロット→この始末。どこで間違った

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