転換期・三衣
●某日、電話にて●
三「文士にとって大切なものって何やと思う?」
千「インスピレーション?}
三「ふむ。確かに直感は大事やなぁ」
千「三ちゃんは?」
三「ん、せやなぁ。生産力なんちゃうかな。最近思たんやけど」
千「生産力?」
三「そ、生産力。
どんなに著名な作家でも、大作一本だけしか書いてない訳やあらへん。
どかっと書いてそれで終わり!っちゅうのは違うと思てな」
千「よく見るよ?一発屋みたいな人」
三「芸人みたいに言うんやない。
それに、ああいうのは氷山の一角やと思てる」
千「没になったモノがいくらでもある、と」
三「それが面白いかどうかはさて置いてな」
千「でも、そんなの見ないと分からないじゃない」
三「だから誰かに見てもらえる場が必要なんよ」
千「あー。だからサイトに投稿しようとか言い出したのね」
三「うむ」
千「その割には良評も酷評もないけどね」
三「そんなにすぐにリアクションがあるもんでもないやろ。それに……」
千「それに?」
三「評価がないっちゅうことは、良くも悪くもないっちゅうことや」
千「淡々としてるもんねぇ。三ちゃんの文章」
三「そこで、や」
千「?」
三「ちょっと試してみたいことがあるんやけど」
千「なになに?」
三「不動のジャンル、恋愛モノを書いてみようと思う」
千「えー。やめといた方がいいんじゃない?
三ちゃんに乙女心が分かるとは思わないんだけど」
三「何のための二人一組や。千づっちゃん、協力してくれへん?」
千「あ、もしかしてその電話だったの?」
三「気づくの遅っ。一人で出来ることなんか、タカが知れとる。
それに、千づっちゃんは俺にないもんを持ってる。
俺にとって必要や」
千「―――」
三「せやけど、女性像という点に置いては千づっちゃんの影響が強いからな。
そこからの脱却も俺にとって必要なことやと思うわ」
千「―――」
三「……?もしもーし?」
千「―――」
三「おーい。電波、悪なったか?」
千「……もう。あ、ごめんごめん。お母さんが来てさ。
で?なになに?何か言った?」
三「……何でもあらへん」
千「んふふ、アタシはそんなに三ちゃんに影響を与えてますか♪」
三「聞いとったんかい。んで?大丈夫なんか?電話してて」
千「ああ、母さん?特に用事はなかったみたい。
三ちゃんと話してるって言ったら代わってくれって。
うるさかったからあしらってただけよ」
三「ははっ、相変わらずやなぁ」
千「ねぇ、新しい女性像として母さんなんかどう?」
三「アホみたいな冗談やな。ま、よろしゅう言うといて」
千「はいはい。でさ、プロットの一つや二つ出来てるんでしょ?」
三「あるよ。今度持ってくわ」
千「アタシも持ってくから感想ちょうだい」
三「はいな。今は何書いてんの?」
千「恋愛モノ。こないだ面白いのみつけてさぁ。
んふふ、やっぱりギャップには萌えるわ」
三「あぁ、お気に入り小説が増えてる思たら……。俺も読もかな」
千「読みなさい。そして萌えなさい」
三「萌えるかどうか自信あらへんけど。まあ了解」
プロットを立てずに文章を書くと、たいていは後でごちゃごちゃになって後悔します。プロットを立てて文章を書くと、どうにも小さく収まった文章になって面白みに欠けます。
つまり、三衣は構成が下手だ、ということです。
気にもしません。
最初から出来る人なんぞいません。たゆまぬ努力、これに尽きるでしょう。疲れたらさぼりますが。
生産力と共に、もう一つ。
三衣のようなぼっち文士に必要な能力は客観視です。第三者からの評価がなければ、自分で評価すればいいじゃない。
自分で書いた文章は面白いに決まっているので、それは少し脇にどけて、第三者目線で見られるかどうか。世間の目をいかにロールプレイできるかが最近の課題です。