酔いどれ・千月
●某日、三衣宅にて●
三「……帰れ」
千「なによぉ。1人暮らしなんだからいいじゃない」
三「ええから帰り。また親を心配させる気か?」
千「ひどいなぁ。ちゃんとここに来るって言ったから大丈夫ぅ」
三「そしたら何て?」
千「三ちゃんによろしくだってさぁ。よろしくぅ」
三「はぁ、締切りまであと一月もないのにこの酔いどれはホンマにもう」
千「何よぉ。万年一次選考落ちがえっらそーにー」
三「ぐっ。ダメージを与えに来ただけなんやったらほんまに帰れ」
千「うひひひ。やーい、三文文士ぃ」
三「まったく……。酔い覚まし、紅茶でええか?」
千「100%のグレープフルーツジュースがいいな」
三「……はいよ」
千「ありがと~。怒った?ねぇ、怒った?」
三「想定範囲内や。よっこいしょっ、と」
千「あ、三ちゃん三ちゃん。あのね……」
三「濃縮還元のヤツは却下、やろ?」
千「さすが、よくわかっていらっしゃるぅ」
三「何年一緒におると思てんの」
千「うー。13年?」
三「14年や。ちょっと待っとり」
千「うぇーい☆」
三「横ピースはやめぇ。ええ年してからに……。
ぬぉう!?ノートを投げるな!!」
千「パソコンじゃないだけ有難く思いなさい。
はやくジュース。持ってきて」
三「ほんま、この酔いどれは」
○ ○ ○
三「ほい、お待っとさん」
千「おーそーいー。ん?何ソレ」
三「俺の?俺は紅茶の気分やったからな。
アイスのグレープフルーツティー。
ベースはセイロン。せっかくやからセパレートにしてみた」
千「ありがとー」
三「ん?」
千「そっちがいい」
三「マイペース甚だしいな」
千「自分でもそう思う」
三「ま、言うと思ってもう一つ作ったけどな」
千「それはそれで性格悪くない?」
三「失敬な。想定範囲内っちゅうやつや」
千「ふぅん」
三「興味なしかーい」
千「ふぅ……落ち着くなぁ。ここ」
三「あかんあかん。ここは千づっちゃんの空間やないで」
千「わーかってる。わかってるよー」
三「そう言いながらコタツにも潜っとるのはなんでや?」
千「ちょっとだけ仮眠」
三「あかんて!熟睡してまうやないか!」
千「いざ開かん夢の国への扉ぁ」
三「開くのは玄関の扉や!」
千「ひひひ。予想通りのツッコミだねー」
三「うむ。ベタを見逃すほど落ちぶれてへんよ」
千「……ねぇ」
三「んぁ?」
千「じゃあ、このシチュエーションはどうなのよ」
三「んー?」
千「一人暮らしの男性の家と知ってて、夜中に女友達が訪ねてきたこの状況」
三「それは……」
千「今日だって、何にも聞かずにいてくれて。
三ちゃんは……いつもそう」
三「……」
千「あたしが辛いとき、不安なとき。
いつもそばにいてくれてるのは、三ちゃんなんだよ」
三「千づっちゃん……」
千「あたし、あたしね?三ちゃんのコト……」
三「布団、敷くわ」
千「えっ?」
三「横の部屋、空いてるし。ゆっくり寝たらええ。
俺は締切り近いからもうちょい書いてる」
千「……そうだね。ごめん、まだちょっと酔ってたみたい」
三「想定範囲内、や。気にしなさんな。
聞かんかった事にしといたるわい」
千「三ちゃん」
三「ん?」
千「ありがと」
三「ん」
千「……」
三「……」
千「ぶふっ」
三「くっ、ふふふ」
千「あははははは!!」
三「はい、カーット。カットー」
千「ひひひ、ダメ、ふふ、ツボにひひひ」
三「いやー、なかなかの名演やったんちゃうか?」
千「あははは、はーオナカイタイ。
久しぶりに小芝居遊びしたねー」
三「急にくるんやもんなー。びっくりしたわ」
千「あー、喉かわいた。そのジュースもらうね」
三「はいよ。いやー、笑った笑った。あ、俺も飲む」
千「はいどーぞ。
何かしら予想外のコトをやってやろうと思いついたもんだからつい」
三「ふぅ。想定外やったわ。俺の負けでええよ」
千「ふふん。あたしの勝ちね。んじゃ布団よろしくぅ」
三「帰れ」
新人賞。面白い響きです。
新人とはなんぞや。新しい人、ですね。
商業作家として、と言う意味合いが強いのでしょう。
小説家として新人。これはありえない。
定義として、小説を書き、誰かの前に出した時点でその人は小説家です。お金うんぬんは、また別の話。人間、誰しも承認欲求と呼ばれるものがあるでしょう。認められたい。評価されたい。
それが原動力になる人もいる。素晴らしい。
でも。
承認欲求は、一人では決して満たされない。第三者が、必ず必要になる。つまり、その欲を満たそうとするならば、自分から発信しなければならない。勝手に誰かが書いたものを見てくれて、あまつさえそれに絶大な評価をしてくれることは無い。なんだそのシンデレラストーリー。
欲を満たしたいなら、行動あるのみ。