異端者・三衣
●某日・コンビニ後●
千「あ、三ちゃん肉まん買ったんだ。一口ちょーだい」
三「肉まんやなくて、あんまんやけどええか?」
千「え、あんまんなんて買ったの?」
三「おい……今なんて言うた」
千「これは譲らないわよ。
ナシでしょ。あんまんなんて」
三「あんまんの魅力がわからんとは。
千づっちゃんの人生それでええんか?」
千「あんまんを好んで食べる人の気持ちがわからないもの。
なんか脇役って感じがしない?」
三「この寒空の中、甘くてしかも美味いんやで?
それだけでッ!それだけで至高やないか!」
千「そうなんだけど、主役はやっぱり肉まんだもん。
あとはピザまんとか。カレーまんとか」
三「それは世間の風潮が作り上げたイメージに過ぎん。
そんな歪んだ民主主義は御免こうむりたい」
千「じゃあ三ちゃん、想像してみてよ。
いい?今から旅行に行くわよ?」
三「行かへんよ?」
千「想像しなさいっての。旅行会社のプランは4つ。
そうね、ハワイとグアムとバリ島と京都」
三「あー。浮いとるなぁ。京都。俺の愛する町が」
千「でしょう?その立ち位置なのよ。
コンビニの蒸し器の中のあんまんは。異論は?」
三「あらへんよ。まぁその通りやと思う。
でもな千づっちゃん。京都はええところや」
千「まぁ、人気よね。でもね。調和は大事よ?
分かる?ハーモニー。OK?」
三「harmony.OKや」
千「変に発音がいいのが憎たらしいわね」
三「お褒めの言葉どーも。確かにあんまんは調和を乱しとると思う。
それでも、しかしながら、や」
千「やっぱあるんじゃない。異論」
三「いやいや。調和に関してはあらへん。その先や」
千「その先?」
三「それでも、異端やと知っても尚!
俺は、あんまんが好きなんや」
千「出た。出ました。ほんと頑固者よね三ちゃん」
三「俺かて、あんまんが異彩を放っとることくらい分かる。
それを理解せずにあんまんが好きやなんて言うつもりはない。
相手の立ち位置、相手との関係性やらを客観的に見てやな……」
千「ねぇ、あんまんの話よね?」
三「そうや。いかに俺があんまんを愛しとるかっちゅう話や。
もっちりした生地はほんの少し塩気があって。
それがあんまんの餡を最大限に甘くしてくれる。
そして手から伝わる暖かさは体と心を満たしてくれる訳やな。
白くてつやつやなのも可愛いし“あんまん”っちゅう名前も、
なんや丸っこくてええな」
千「きっと、あんまんをそこまで想うことが出来るのは三ちゃんだけね」
三「うむ。今回ばっかりは俺の勝ちのようやな」
千「で、そのあんまんってのはさ。
冷めても三ちゃんの心を暖めてくれるものなの?」
三「おわぁ!!すっかり冷めとる!!
おのれ千月……謀ったな!?」
千「ふふん、あたしに勝とうなんて10年早いのよ♪」
三「なんでや。俺は自分を貫いたはずやのに……」
こだわり。いい言葉です。
元来、『こだわり』はマイナスイメージの言葉だそうです。ちょっとした細かい所に、必要以上に気を回す。結果、大事な所を見落とす。そんな意味で戒めとして使われていた言葉ですね。
否。
文はこだわるべきなのです。句点、読点の位置。言葉一つへの執着。文のリズム。感じの良さ。こだわることが許されます。だって、プロではないのだから。
商業作家になった時点で、その他の時間やしがらみとの闘いが始まります。自己葛藤とも向き合うことになるでしょう。
作家の持つ芸術性と、商品としての戦略性を考え抜かなければいけなくなってきます。だって、売れないと。商業だったら。
三衣は作家ではなく文士ですので、もうちょっとその辺からは逃げます。
ええ、何のこだわりもなく。