怒れる男・三衣
●某日、牛丼屋にて●
三「かんがえられへん」
千「どしたの?」
三「かんっがえられへん!!」
千「だから何が?その牛丼がどうかしたの?」
三「いや、このメール。見てみ」
千「んー……?ただの迷惑メールじゃないの?
そんなに怒らなくてもいいのに。
心の狭い男は嫌われるよ三ちゃん」
三「迷惑メールはええ。モテへんのも気にならん。
そんなんやないねん。許されへんのは内容や。
何通か保存してあるから、千づっちゃんも読んでみ」
千「モテないのを気にしないのも男としてどうかと思うけど。
どれどれ。じゃあ拝見しようじゃないの」
○ ○ ○
千「わかんない」
三「せやろ!?訳わからんやろ!?」
千「いや、そうじゃなくて。
三ちゃんがどうしてそこまで怒ってるのかが分からない。
どう見てもサクラからの変な迷惑メールでしょ?」
三「……千月。お前は俺を怒らせた」
千「は、はい?」
三「疾く応えよ。
そのサクラからの迷惑メール。目的は?」
千「え、と、お金を払わせることでしょ?」
三「せやな。その通りや。払うはずないけどな。
次ッ、その迷惑メールのあらすじは?」
千「多額のお金を見ず知らずのあなたに投資したい」
三「うんうん。物語の起点や」
千「受け渡しに事務手数料がかかるからポイントを購入してほしい」
三「よくあるな。すでにツッコミ所満載やけどな。で?」
千「投資しようとしたお金がある人物に差し押さえられてしまった」
三「そこでちょっと笑ったわ。
ぐっと読者を引き込むええスパイスやと思う」
千「あなたが少しポイントを用意してくれたら取り返せる。
ポイントを購入して助けてください」
三「まぁ誰が助けるかと思いながらもついつい次のメールを期待するわな」
千「このままでは財産の全てが奪われる。破滅です。○○時までに手続きを。
そこまでなら奪われるのを保留出来る。」
三「と、なるとそこを過ぎたらの経過が待ち遠しい自分がおったんや」
千「三ちゃん、友達いないの?迷惑メールを楽しみにしてるなんて」
三「文士が文を楽しむのは人の呼吸と同義やろ。
許されへんのはそのあとや」
千「えっと、指定時刻を過ぎたこのメールね。ふむふむ。
“隠し財産の100万円で猶予時間を延長。今のうちに手続きを!”
……はあ?」
三「な!?なんやそのご都合主義すぎる展開は!!
しかもその後は時間が来るたびに沸いて出る100万円のパレード!
既に1000万は猶予の延長とやらに使っとる」
千「いやまぁ、迷惑メールなんだし無視すればいいじゃない」
三「終わらせる気のない文章なんぞ言葉の不法投棄やないか!」
千「どうどう。三ちゃん」
三「千づっちゃんも文士やったらわかるやろこの気持ち!」
千「うんうん、そうだね。落ち着こう、ね?」
三「しまいにはあなたへの投資金数億と数千円分のポイント、
その差額の利益も分からないんですか?ときた」
千「馬鹿にされたんだね。うんうん、わかるわかる。」
三「ちゃうねん!ブレブレやねん、主旨が!馬鹿にされてもええねん。
それよりこの文の着地点が気に食わんのや!!」
千「え、あたしまた地雷踏んだの?」
三「最初は助けを請うとったはずや。それがしまいには利益が出る?
完全に読者のことを考えてへん」
千「いやだって詐欺の一種なんだから……」
三「そう、悪質な詐欺や。でもな千づっちゃん。向こうもプロや」
千「プロ?詐欺の?」
三「それで人を騙して飯を食うとる。褒められたもんやないけどな。
しかしながら、この迷惑メールにはその気概がまったくあらへん。
それがいらんねん!」
千「つ、つまり、全力で来いよ。ってこと?」
三「そうや。流石は千づっちゃん。よぉ分かってる。
迷惑メールやとはいえ面白い文章が読めて満足したら
それ相応の対価を払てもええ。
まぁ、これは俺の個人的な考えやけどもな。」
千「あたし、迷惑メールでそこまで熱くなれるの三ちゃんだけだと思う」
三「俺は熱のこもった文が読みたいだけや」
千「よぉっく分かった。いや、分かってたけど改めて分かった」
三「わかってくれたか」
千「三ちゃん、変だわ」
三「世の中の文士全ての総意やと思うけどな。
熱意は必要やで。熱くならな」
千「……冷めた牛丼と周りの冷たい視線はもう手遅れだけど?」
三「……すまん」
流行りましたね。一時。この手の迷惑メール。
捨て置くには惜しい文章も中にはありました。
しかし。
やはり文章は、物語は完結させてなんぼです!
完成した製品に対価を払う。これは当然です。顧客の側からすれば。
つまり、完結した時点で価値が生じるのです。
そう思って、日々、文を書く三衣です。