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壊れた女・千月

●某日、三衣宅にて●



千「やほー。おひさしぶりー」



千「あれ?三ちゃーん?いないのー?」



千「キッチン……にもいないわね。

  二階かしら?」



   ○   ○   ○



千「!?

  三ちゃん!?どうしたの!?」



三「うぁ……千づっちゃん……?

  来るの、明日の朝や言うてなかったっけ……?」



千「だから来たんじゃない。十時よ、今」



三「おう、十時やろ……?

  帰ってきた時に時計見たら九時やったからな」



千「朝のね」



三「マジか……ゆうべ家に着いてからの記憶が一切あらへん。

  蘇生させてくれたみたいで申し訳ないのう」



千「ザキ」



三「やめて、ほんまにトドメさされそうやから」



千「ザラキ」



三「確率を上げんといてくれる!?」



千「いいからシャワー浴びてすっきりしてきなさい。

  その間に部屋の片づけくらいやってあげるから」



三「助かる。せやけど、本はまとめて置いといて。

  棚には、見られたら困る男のアレコレが」



千「ニフラム」



三「消えろってかー。

  ……あー。あかんわ。

  ツッコミに乗りがあらへん。すっきりしてくる」



千「はいはい、いってらっしゃい」




   ○   ○   ○




三「で、シャワー浴びて髭も剃って、イイ男になってきた訳やけども。

  コタツの上に本のタワーがあると圧巻やな」



千「いい男?嘘はやめなさい。

  それよりなんだか、ものすごく本が増えてるんだけど」



三「イヤな予感はしとったんや。知りたいことが次から次へと……」



千「なにこれ、経済学の本まであるじゃない」



三「おー、それは一目惚れして買った」



千「ヒドイ!アタシというものがありながら!」



三「えええぇぇ。なんか今日のノリ、絡み辛いなあ……」



千「自分でもそう思う」



三「しっかしアレやのう。

  自分の能力の低さにはいつもながら嫌気がさす」



千「それでも自分が嫌いにならない所は素直にすごいと思う」



三「自分が自分を嫌いになったら終わりやないか。

  ただでさえ誰からも好かれんっちゅうのに」



千「あたしは好きよ」



三「……はぁん?」



千「なに間抜けな声出してるのよ。

  あたしは好きでいるわよ。ずっと」



三「えー、耳かきどこにやったかな……

  と、言うような雰囲気でもないな」



千「今日のあたしは大真面目よ」



三「眼鏡、外しとるしなあ。マジなんやろうなあ。

  俺、身長180cmあらへんで?」



千「知ってる」



三「そないに筋肉質でもないし」



千「それも知ってる」



三「ぜーんぶ織り込み済みかぁ……

  今回はずいぶんとまあ手ごわいのう」



千「ついでに、今思ってることも当ててあげましょうか?」



三「いらん。絶対当てに来るやろ。言われる前に言うたるわい。

  俺かて千づっちゃんのことが好きや。

  ま、先刻ご承知の事実やとは思うけども」



千「あーあ。言っちゃった。

  きっと明日にはお互いまた頭抱えて悩むんだろうなあ」



三「せやなあ。何回しとるかなあ。このやりとり」



千「とぼけないでよ、もう。絶対覚えてるでしょ」



三「よくお分かりで。今回で通算6回目や。

  なんのために俺が家を出たと思とるんや、もう」



千「今回は割と期間があったと思うんだけどなあ」



三「まあな。やっぱりアレちゃうか?

  彼氏と別れたんがあかんかったんちゃうか?」



千「やー。そんな冷静な分析いらなーい」



三「片方が壊れたときは片方が冷静でおること。

  世の中の真理っちゅうやつやな」



千「そんなこと言っても内心では混乱してるくせに」



三「はっはー。もう慣れたもんや。

  ついでに、千づっちゃんの冷静さを取り戻すための

  魔法の一言も用意しとる」



千「さいてー。三ちゃんさいてー。今は絶対聞きたくない。

  もうちょっとだけ後にしてよ」



三「蹴るな蹴るな……あと10分だけな」



千「ひひひ、やった。優しいんだから。

  ね、そっち行っていい?」



三「俺のは甘さやったんちゃうの?

  ほなまあ、どうぞおいでませ」



千「いいの。今だけは優しさなの」



三「おーおー。壊れとる壊れとる」



千「……」



三「……なあ、千づっちゃん?」



千「アタシが眼鏡かけだしたのって、高校からだったわよね」



三「へ?お、おう。せやけど?」



千「クセ毛なのは昔からだけどね」



三「……あー、その、千月さん?

  できれば、その辺りで止めていただけます?」



千「やぁよ。

  “眼鏡でクセ毛の女性を見るとつい手を差し伸べる”んでしょ?

  ほんと、捻くれてるんだから」



三「いつからやろうなあ。

  そして誰のせいやろなあ」



千「誰のせいでもないわよ。

  アタシたちが近すぎたのがダメだったのよ」



三「ま、二人で話し合った結果やさかいな。

  今更、後悔もせんわい」



千「そうだね。いまさらだもんね。

  10分……そろそろ時間だねー」



三「その顔とその声はずるいわ」



千「じゃあ、言わないでいてくれる?

  今言おうとしてること」



三「そうもいかん。これは俺の意地や。

  父さんにも、母さんにも悪いけどな」



千「……あたしにも悪いんじゃないかしら?」



三「せやな。理解してくれてありがとう。

  ……今日は家に顔だすわ、"姉さん"」



千「あーぁ。言われちゃった。

  "兄さん"のその呼び方、本当にずるい」



三「これが、うちの家族としての絆みたいなもんやからな。

  俺の父さんも、千づっちゃんの母さんも相当悩んだんやろ」



千「アタシたちが二人をけしかけた手前、せっかくできた"家族"を

  アタシたちが壊す訳にはいかないからね。これでいいの」



三「まあ、こっちの考えとることくらい、お見通しやろうけどな」



千「その割には、あっさり合鍵貸してくれるわよ、父さん」



三「や、あの人は多分、母さんと二人でおりたいだけや。

  今頃、同じようにこうやって寄り添って座っとるんちゃうか。

  それはそれでええやろ。苦労かけてきたんやし」



千「でも籍入れてもうかなり経つじゃない。

  ちょっと羨ましいなー」



三「自分の母親がとられるみたいな感じ?」



千「そういうのじゃないけど……。

  たまにね?ほんとにたまーになんだけど。

  これで良かったのかなって思う」



三「愚問やな。間違ってる訳あらへん」



千「本当に?」



三「俺が今までに嘘を吐いたことがあったか?」



千「日々あるわよ。今でもそうじゃない」



三「せやな、あるな」



千「もうっ。ねえ、頭撫でて。

  そうしたら、三ちゃんの決断が間違ってないって信じるから」



三「はいよ。

  しかし、いつになったらこの話が書けるんやろか」



千「あたしたちがちゃんと、4人で"家族"になれたらじゃない?」



三「おー、言葉選んでくれてありがとうよー。4人でな。

  危うく暴走するところやった」



千「しっかりしてよー、"兄さん"」



三「肝に命じとくわ、"姉さん"」



千「よーし!スッキリした!

  父さんや母さんや三ちゃんのためにも、新しい恋人探すぞー!」



三「おー、俺の分までよろしく」



千「そっちも頑張りなさい!」

  





 ちょっとだけややこしい、三衣の家庭事情。よくある話だとは思いますけどね。歪んでいるのは分かっていても、それを貫き通さなければならない時が、男にはあるものです。


 それもまた、人生の無駄の一つになることでしょう。これが文の肥やしになるかどうかは、神のみぞ知る。三衣はただひたすら、面白い人生を求めて過ごすのです。

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