音を聴く女・千月
●某日、ライブ後。ラーメン屋にて●
千「楽しかったわねー。ライブ」
三「うむ。予想を越えてきた。色んな意味で」
千「色んな意味?」
三「まさかアコースティックイベントやとは思ってなかった……」
千「確かに、ライブのタイトルからは想像しにくかったわね」
三「弾き語りっちゅうのもええもんやな」
千「やめておきなさい」
三「ま、まだ何も言うてないやないか!」
千「三ちゃんは影響されやすいんだから。
それに、三ちゃんに音の才能はないわよ」
三「うむ。わかっとる。音を楽しむ能力が無いからなぁ」
千「どうしたって歌詞の意味を文で考えてるでしょ」
三「お、気付かれとったか」
千「バレバレ。えーっと、『20voice』って曲で渋い顔してたでしょ。
理由、当ててあげましょうか?」
三「嫌やなあ。当てられるんやろうなあ」
千「歌詞。ら抜き言葉になってたからでしょ」
三「嫌やって言うたのに……合ってるし」
千「いいじゃない。『音楽』は『音』を『楽』しむものよ。
音と声をもっと素直に楽しみなさい」
三「歌は歌詞やと思うで。ええ歌には、ええ歌詞がある」
千「歌詞だけでもダメよ。音だって大切なの。
いい歌はいい音をしてるものよ」
三「ふむ。文にも同じことが言えるような気がするのう」
千「いわゆる、文のリズムってやつね。
あえて間違った言葉を使ったり、言葉を変えたりするでしょう?」
三「なんとなく思いついた時は確かにやるなあ」
千「それを、自然と出来るのが才能よ。
自分の意思で切り替えまでできるなら、それは天才ね」
三「所詮、考えて生み出すヤツは凡才っちゅうことやな」
千「ま、そういうコト。アタシも三ちゃんも、そういう意味では無能ね」
三「才能がないヤツは考えるしかないからのう」
千「そこまでやってやっとスタートラインだものね」
三「考えるのは得意分野や」
千「ねえ、三ちゃん」
三「なんや?」
千「三ちゃんはさ、自分に何の才能があるか考えたことある?」
三「ふむ。大学の時くらいにちょこっと考えたくらいやな。
何や、今日のライブ見て思う所でもあったか?」
千「そ。ちっちゃなライブハウスで、自分の可能性を考えながら、
不安になっても必死で歌ってる姿を見てると……ちょっとね」
三「……千づっちゃんと違て、俺は音の世界にはあんまり触れずにきたけども、
とりあえず素直な意見を述べさせてもらうとすれば、やな」
千「うん」
三「才能は、ラーメンのネギやな。あった方が美味くなる。
やけど、ラーメンが好きかどうかの方が大切なんちゃうか」
千「出た。三ちゃんの何でもラーメン理論。
しかも、今目の前のラーメン見て考えたでしょ」
三「即興にしては、まずまず。千づっちゃん、さっき自分で言うたやないか。
音楽は、音を楽しむもんや、て。
今日歌っとった人らもきっと、自分が好きやから歌っとるんやろ。
好きやったら、それでええと思うよ。
インディーズって、そういうもんちゃう?」
千「そうかもねー。なんだか、昔と違ってさ。歌や曲よりもまず、
頑張れ!って言いたくなるの」
三「ほな、買うてた物販のCDも同情票みたいなもんか?」
千「違うわよ。聴きたいと思ったから買ったの」
三「それで充分やないか。歌いたいモンが歌う。聞きたいモンが聴く。
千づっちゃんが頑張れって言う。相手がありがとうって言う。
他になんか要るか?」
千「むー。淡々としゃべってるけどさー。三ちゃんも買ってたわよね?
何だかんだで感情移入してるんじゃないのー?」
三「文士が歌を好いたらあかんか?」
千「ふふ、べっつにー。ま、三ちゃんは影響されやすいからねー」
三「……否定は出来んな」
千「うむ。三ちゃんらしくてよろしい。いい休日だったわね」
三「せやな。帰ったらぼちぼち何か書くとしよか」
千「頑張れ、三文文士」
三「励ましか?嫌味か?」
千「ご想像におまかせするわ」
三「ほな励ましやと思っとくわ」
千「ポジティブねえ。相変わらず」
三「人間、それくらいが丁度ええんよ。
……あー、そうか」
千「なになに?どしたの?」
三「音も文も同じっちゅうことは、文も楽しんで書いたらええんやな」
千「文学ならぬ、文楽ってやつかしらね」
三「うむ。音にしたら一緒やけど、そういうこっちゃな。
なかなか有意義な話ができたのう」
千「それは良かった。じゃあ、講義代として
ここの支払いはよろしくね」
三「がめついのう。
ま、ラーメン代くらいええやろ」
千「ありがとー。
すいませーん、生一つくださーい!」
三「追加分は自己負担やからね!?」
ええ、三衣に音楽の才能はありませんとも。
文の才能も無いですが、文を書くのは好きです。
だから、それでいいんです。
好きなことをやる。その単純な事が出来れば、割と楽しいものです。でも、色々な事が周りに集まってきて、どうにもうまく行かない時もあるものです。
夢のある若い人たちに対して、何が出来る訳でもありませんし、またする気もありません。自分の道は自分で歩くことをお勧めします。
ただただ一言。頑張れ、といつでも三衣は言うことでしょう。




