本を語る男・三衣
●某日、三衣家にて●
三「わが生涯に一片の悔いなし…ッ!」
千「はい、嘘」
三「うむ。まだまだ人生謳歌せにゃならんからな」
千「これ以上ないくらい楽しんでる気がするけどなぁ」
三「日々、楽しいモンは更新されるんよ」
千「でさ、畳に寝転がってないで家事したら?
洗濯機、もう止まってるじゃない」
三「もうちょっと俺を労わろうとかそんな気持ちはあらへんか?」
千「あると思う?」
三「無いに決まっとる」
千「ちょっとは悩んでくれたっていいじゃない!」
三「事実は速やかに明らかにされるべきや。
よい、しょっと、っこらしょい」
千「起き上がるのはいいけど、オヤジ臭いわよ、三ちゃん」
三「構わんよ。立派にオヤジや。気にせんわい」
千「心だけでも若くありなさいって言ってるのよ」
三「千づっちゃんはいつまでも若い心を持っとる、と?」
千「もちろん。恋愛は人を若く保つのよ!」
三「うわ、出た、恋愛至上論」
千「それが三ちゃんの執筆の助けになってるんじゃない。
ほら、あたしに感謝しなさーい」
三「よっ、さすが三衣千月のお話(恋愛絡み)担当、千づっちゃん!」
千「そういう執筆担当(全部)の三ちゃんはいつになったら
次の話を書いてくれるのかしら?」
三「まぁ、落ち着き。俺かて天狗の活躍を書きたいんや」
千「次は千里さんのガールズトーク回って決めたでしょ!?」
三「いやいや、町の妖怪事情が変わった所で、前々から暖めてた妖怪のトコに
太郎と次郎を挨拶にいかせたいんやけども」
千「ダメよ!美里ちゃんと隼子ちゃんと宇美ちゃんとで花を咲かせるの!
美里さんは藤堂さんがいるし、隼子ちゃんは鎮君となんだかいい感じだし、
宇美ちゃんは戸津先生との話をしたいの!」
三「なぁ、うちの千里だけ相手おらんのとちゃうか?」
千「三ちゃんが……三ちゃんがあんなキャラにするから……
誰!?モデルは誰なの!?あの飄々とした感じ。
タダモノじゃないわよ」
三「せやなぁ、いっちゃん近いのは……。
弁天ちゃうか?『有頂天家族』の」
千「また森見作品に影響受けたのね……。そんなに好きなの?」
三「腐れ大学生を描くことに関しては一級品やからなぁ。
あの人の作品はすべて大好きや」
千「三ちゃんの本棚には全作品並んでるものね」
三「うむ。ハマるんよ。あの文体が。言い回しが」
千「ラーメンズとどっちが影響力大きいの?」
三「ぬ。究極の2択やな。
あ、でも綾辻作品も結構根っこに流れとるよ」
千「館シリーズの人ね。後は……本棚に統一性ないわね」
三「タイトル買い、雰囲気買いどんと来いやからな」
千「あ、伊坂さんとかメジャー所もあるんだ。
奥の方に星新一発見!」
三「漁るな漁るな。あ、これ貸したる。
感想聞かせてくれんか?」
千「あ、『恋都の狐さん』じゃない。
買ったんだ。どうだった?」
三「……本には、合う波長と合わん波長がある」
千「大体内容が分かったわ。
どうせ、舞台が地元だからってだけで買ったんでしょ」
三「うむ。同じ理由でほれ。万城目さんの本もずらりや」
千「鹿男あおによし、鴨川ホルモー、プリンセス・トヨトミ。
奈良、京都、大阪と来て、確か次は滋賀を舞台に書いてなかった?」
三「偉大なる、しゅららぼんやろ?まだ読んでない」
千「そうなんだ。本棚の中で三ちゃんのおススメは?」
三「左の棚の漫画も入れるか?」
千「どうせ『ジョジョ』か『うしおととら』でしょ。読んだわよ?」
三「千づっちゃんに読んで欲しいとなると、『味いちもんめ』か……
『仮面ライダーSpirits』ってとこやな」
千「後者は高速で遠慮するわ。小説の方は?」
三「しゃあないな。ランキング形式で紹介したろ」
千「え?何でそんなに無駄に気合入ったの?」
三「第10位ー!」
千「しかも多いし!」
三「有川浩、『阪急電車』
日常の中の小さな奇跡。
読んだら千づっちゃんも阪急電車・今津線に乗りたくなること請け合いや」
千「登場人物がそれぞれ少しづつリンクしてるのよね?
映画があったね、そういえば」
三「9位、乾くるみ、『イニシエーション・ラブ』!
この小説は二度読むこと間違いなし!
ネタバレはせんから、まずは読んでみ。
内容は普通の恋愛小説や」
千「三ちゃんが好きそうな仕掛けがあるってことね」
三「8位、辻村深月、『冷たい校舎の時は止まる』
前半終了ですでにほとんどの風呂敷をたたみきっとる。
個人的に驚きの作品」
千「それ、褒めてる?」
三「7位、米澤穂信、『インシテミル』
ミステリ好きなら一読の価値あり。
映画は認めん。断じて。そう、断じて!」
千「映画主演の藤原竜也に悪いからあんまりそういうコト言わないの」
三「6位、伊藤計劃、『虐殺器官』
物騒なタイトルやけど、ええ現代SFやった。
数ヶ月で描き上げたとは思えん。惜しい人を亡くした……」
千「あ、故人なのね。三ちゃんがSFって珍しいわね」
三「5位、三浦しをん、『舟を編む』
辞書を作り上げるまでの長い物語や。
辞書作りにかける情熱は素晴らしい。
辞書が完成した時は思わず落涙したわ」
千「うん、だんだん三ちゃんの好みがわかってきた」
三「4位、伊坂幸太郎、『死神の精度』
職業:死神、趣味:ミュージック。そんな死神の男の描写が絶妙や。
現実感がなくて、それでいて親近感が湧く。
伊坂マジックとでも名付けたくなるな」
千「伊坂マジック……それはちょっと面白そうな響きね」
三「3位、越谷オサム、『階段途中のビッグノイズ』
これぞ青春小説!王道中の王道!
映画化するなら、監督は矢口史靖さんしかおらんと思う!」
千「あ、ウォーターボーイズとかロボジーの監督さんね」
三「2位、綾辻行人、『十角館の殺人』
俺がミステリにハマったきっかけでもある。
解決編に入る前の一言にゾクッと来た人は多いはずや」
千「あら、ここに来てミステリなの?大衆小説が上位を占めると思ったのに」
三「1位は森見登美彦、『新釈 走れメロス他4編』
過去の名作を堂々とオマージュ。
京都の街を舞台に再編された物語が今、幕を開けるッ!
天狗が空を飛び、腐れ大学生が洛中を駆け抜ける。
笑いあり、涙あり。そして時には切なさありの短篇集。
元になった文学作品を知ってたらもっと面白いんちゃうかな」
千「長い長い。コメントが。じゃあ、どれ借りようかしらね」
三「ほい、森見登美彦『有頂天家族』。これを貸し出そう」
千「ランキングになかったじゃない!」
三「アニメ化された今が旬の一冊や。
京都を走り回る狸たちと天狗が織りなす痛快、毛玉ファンタジー。
最後の盛り上がりは鳥肌モンやで」
千「挙がった中から渡されると思うじゃない。普通は」
三「アホな。惜しくも選外になっとるけど、原宏一の『こたつ』もええし、
異色枠で円城塔の『後藤さんのこと』も挙げたい。
それに、さっき言うた作者の他の作品も読み応えのある作品は多いんやで」
千「なんでそんなに本が好きなの?」
三「好きに理由はあらへん。人を好きになるのもせやろ。
ただし、嫌いになる時には理由があるけどな」
千「本じゃなくて人に恋すればいいのに」
三「ま、面白い本を読み尽くしたら考えてもええな」
千「一生無いって言いたいわけね」
三「うむ。そして例え世の中の本を全て読んだとしても、その時は来ん」
千「そりゃまたどうして?」
三「自分で書くからに決まっとる」
千「言ってなさい。三文文士」
三「ひひひ。ま、これからも頑張ろうや。よろしゅうに」
千「せめて最終選考に残ってから大口叩けばいいのに……
仕方ないから付き合ったげるわよ。約束だものね」
三「どーも。さて、夜も遅いし寝るとしますかね」
千「いや、家事が三ちゃんを待ってるわよ?
忘れてない?洗濯物のこと」
三「完全に忘れとった……」
本を読むこと。本に限らずですが、知識を自分の中に取り入れること。それも、オールジャンルに。その情報を自分の中で消化して、はじめて自分から発信する情報に変えられるのだと思います。
この、自分の中で消化がクセモノです。面白い表現や面白い題材はつい使いたくなってしまうのです。仕入れた知識は披露したくなるものですからね。
そこをぐっと堪えて、熟して良い塩梅になるまで置いておくのが肝ですね。
放っておきすぎると旬を逃して腐ってしまうのが困りものですが。




