第五部・1:"STRANGER"
自分の兄が藤堂亮……。
僕は狐に抓まれたような感覚だった。
藤堂は何一つそんな素振りを見せなかったではないか。
いや、見せたかも知れないが、僕は一切気付かなかった。
確かに、どこか懐かしい感じはしたし、馬が合った。
だが、それだけで彼が兄貴だとは分からない。
僕は、あまりの驚きで、地面に座り込んでしまった。
すると、小林さんが笑いながら手を差し出してくれた。
僕は、それを掴む気になれなかった。
しばらく一人で考えさせて欲しかった。
すると、小林さんは気が付いたのか手を引っ込めた。
しばらくじっとしていると、落ち着いてきた。
僕は、立ち上がり、小林さんに尋ねた。
「僕の兄が藤堂亮である事は不完全ながら納得しました。しかし、腑に落ちないことが一つあります。それは、僕が一八歳なのに対して僕の兄である藤堂亮も一八歳。これでは説明が付かないではないのですか?」
すると、小林さんは造作も無く言ってのけた。
「君と亮は双子だよ、彼の方が先に生まれたから兄ってだけさ」
大学教授風の男性が続ける。
「藤堂一家の人間たるものが、そんな単純な事にも気が付かないのかい? 頭のいい人間は時として、物事をあまりに深く考えすぎる事がある。それでは、これから、大事な事を見落とすかも知れないぞ」
……たったこれだけに酷い言われようだな……。
まるで、なんか悪いこと聞いてしまったみたいではないか……。
多少なり自尊心を傷付けられた気がした。
互いが険悪になりそうな雰囲気の中、突然テンションの
高い声が下から聞こえてきた。