第四部:"A NEW JOURNEY"
喫茶店に戻ると店長しか残っていない。
「お帰りなさい。遅かったですね。どうでした?久しぶりの息子との会話は?」
は?
「おいおい、小林君……私は育て親だよ。まぁ失格だがね……」
ちょっと待って……この人が育て親?初めて聞いたぞ……。
ダメだ……また頭がフリーズしそうだ。メモリが足りない……。
「まあそれはいい。そろそろ下に降りようか」
二人はスタスタ歩き出す。
慌てて追いかけると、彼らは倉庫に入っていく。
僕も慌てて中に入ると、二人がいない。
「どこに行ったんだ?ちょっと待ってくれ。どこにも隠れる場所なんて無いじゃないか。訳分かんないよ……ったく……」
僕は樽に座り込み、途方に暮れた。
しばらく考えていると頭が冷静になった。
「待てよ。僕が彼らを追いかけて姿を見失うまでに約三秒……、その間にこの空間で隠れることはほぼ不可能。大の大人が二人隠れるスペースも無い……。となると、この短時間に違う部屋に移動するしかない。しかし、短時間で空間移動する為にはかなりの高速で動くしかない。人間が一番早く生身で移動する方法は一つ……、重力に任せて落下すること。だが、床が抜けるような仕掛けがあれば、関係者以外にもばれてしまう。ならば、関係者しか持っていない物が必要。だとすると、やはりこのペンダントだろうな。だが使う場所もこの暗闇では分かりづらいだろう。ならば、分かり易い。僕にとっては。このペンダントがスイッチになり得る事象は限られる。投げるか、置くか、のどちらかだろうな」
投げてしまえば無くしてしまう可能性がある。
ならば置くしかないだろう。
しかしどこに置く……僕ならどうする……。
考えろ……僕ならどこに置く……。
関係者にしか分からない事……、
一般人ではわからない方法……。
この組織名はロンギヌス……、ロンギヌスはキリストを殺した処刑人の名前。
ロンギヌスはキリストのわき腹を刺した。
ならば、これに近い方法を関係者は取るだろう。
この部屋をキリストに見立てると、ドアが槍であいた穴……ならばそこを埋めて補完する方 方法は……。
このペンダントをドアにはめる。
しかし、ドアにはめ込める場所は限られる。鍵穴かのぞき穴……。
のぞき穴が一番自然だな……。
僕は試しにのぞき穴にはめ込んでみた。
突然、床の感覚が無くなり、ものすごいGが体にかかる。
「……組織関係者が考えそうな答えだな。しかし初めて聖書が役に立った気がする……。このご時世にアナログ過ぎだろ……これ……。だが亮……ペンダントこう言う事だったんだね。一応感謝かな?」
僕は何故か余裕にも考えていた。
と、突然下からものすごい空気が上がってきて、落下速度が急激に遅くなる。
急に景色が開けた。
「……すごい……」
僕の目の前にはまるで司令室のような広い空間が現れた。
目の前にはとても大きなモニターがある。
なるほど映画館のような作りである。
ただ違うのは、部屋の座席中央部分だけ高さが違う。
まるで、幹部達専用のような雰囲気である。
そこにゆっくり地面に着地する。
するとさっきの店長がお出迎え……。
「五分か……四年前以来にしたら上出来だね。さすが藤堂一家の次男だ……」
「まったく、藤堂一家は化け物ぞろいだな……。我々にとっては救いだが……」
といきなりメガネをかけた大学教授のような人が出てきた。
僕は何がなにやら訳がわからなかった。
今日ほど刺激の強い日は初めてだ……。
「待ってください! さっき僕が籐堂一家の次男って言いませんでしたか?」
すると大学教授のような人がきっぱりと答えた。
「いかにも次男だ。すなわち藤堂亮は君の兄さ」
僕は世界のときが止まったような気がした。
藤堂亮が僕の兄? 馬鹿な……。