第三部・1:"When I Find Peace of Mind"
神が誕生するきっかけになったあの事件を人々は忘れ去れさっている。
だが、神を誕生させるきっかけとなった事件の傷跡は今でも生々しく各地に残っている。
都心部からモノレールで6分ほどの国立公園。
ここは大自然に囲まれた壮大な公園である。
市民の憩いの場として、常ににぎわっている。
その中には、街の中でもデート・スポットとして有名な噴水や、犬の散歩に適した遊歩道、そしてサイクリングコース……。
数々の名スポットがあるがその中でもっとも人気なのは喫茶店『紫苑』。男女共に絶大な支持を誇る名店である。
その紫苑でもっとも人気のメニューは『エスカルゴのパイ包み焼き』と、『地中海風リゾットのマヨネーズ添え』である。
僕はこの店は藤堂から良く聞いていた。
特に『エスカルゴのパイ包み焼き』は最高においしいらしい。
だが、その藤堂は今、もういない。
僕は一人で、こんな高級そうな店に行くことに慣れていなかった。
でも、何故か、藤堂が死んでから、ここに行かなければならないという使命感のようなものに苛まれるようになった。
何故だろう……。まるで藤堂が僕をここに引っ張っているような……。
そんな感覚である。
そして今日……僕は紫苑の前に来た。
何故だろう……とても久しぶりな気がする。
取り合えず入ってみよう……。僕は古風なドアを開ける。
「チリンチリン」といい音がなる。
すると勝手に口が動いた。
「ただいま」
すると店長らしきおじさんが迎えてくれた。
「やぁお帰り。パイ包み焼きだね?」
何故か僕の食べたいものを当てる。
「あ、はい……でもどうして分かるんですか?」
すると彼は笑いながら、
「それは秘密さ。」と言った。
「でも今日はあいにく一杯ででね……相席でいいかな?」と言われた。
初対面なのに何故こんなに親しげに話し掛けてくるのか。
でも全然不気味じゃなかった。
そして今日、むしろ心地よかった。
僕の家族のような温かみがあった。
だが、僕の家族は6年前死んだ。いや、死んだらしい。
僕には記憶がない。ずっと意識不明だったらしいから・・・。
「えぇ、構いませんよ」
「じゃあこちらに……」
連れて行かれた席は噴水が良く見える景色のいい窓側の席だった。
そこに座っていたのは、品のいい老紳士だった。
僕を見上げると紳士はにっこり笑った。
……やっぱり知ってる気がする。でも誰だろう……?
「じゃあしばらくお待ちください。すぐに持ってきますので」
僕は店長が厨房に引っ込んだのを見届けてからすぐに老紳士に聞いてみた。
「あの……勘違いだったらすみません。一つ聞いていいでしょうか?」
すると老紳士が食べるのをやめてこちらを向き笑いながらこう言った。
「私と君が会ったことが無いかって?そりゃあるさ」
僕は口がきけなかった。何故何もしゃべってないのに……何故?
すると彼は「聞きたいかい?理由が。ここでは言えないね……。料理に集中したいから」と言って微笑みまた食べだした。
僕もとりあえず運ばれてきた料理に手をつけた。
「おいしい……」
すると彼は「懐かしい味だろう……君はこれが大好きだった。亮君も大好きだったよ……何杯も食べてお腹を壊してね……」
と言って僕を見て笑った。
「藤堂を知ってるんですか?」僕が言うと彼は、
「別のところで話そうか」と言って席を立とうとしたが、僕が食べているのに気が付いてバツが悪そうに席に戻った。
僕が食べ終わると彼は僕の伝票までもってレジに行った。
僕が慌てて断ると彼は「今日はおごりだよ」と微笑んでお金を払ってしまった。
次に彼は私を外に連れ出し公園を歩きだした。
「今は客が多い。スパイも多くいる。だから人が少なくなるまでこの老いぼれとしばらくつきあってくれんか?」と言った。
僕も嫌ではないし、むしろもっと彼の話を聞きたかったから付き合うことにした。
彼はしばらく無言で歩き、噴水の側のベンチに座った。
僕が座り終えると彼はこっちを向き、ペンダントを見て、一言だけこう言った。
「亮は君に全てを託したんだね……」
僕は答えることが出来なかった。