第二部・1:"Life goes on"
「俺の信じている神はこの社会の神ではない。俺は15歳の冬、確かに神を見た。俺は今まで神ってのは長いひげをした爺さんだと思ってた。でも、違った。俺の見た神は女の人だった。すごくやさしい目をしていた。あの時俺は大好きだった恋人「武藤 エリカ」を失った直後の夜だった。あいつはいつものように俺と放課後この丘で町を見るのが日課だった。いつものように、ただ肩組んで、どうでもいい話をするだけ。でもその時間は俺達の至福の時間だった。誰も邪魔出来ない時間だった。ここまではいつも通りだった。でも……。
「先帰るね! 今日はお母さんの誕生日なんだ! 今日くらい早く帰ってあげないと♪」
「オッケー! お母さんにおめでとうございますって言っといて」
「分かった! じゃね!!」
あいつは丘を駆け下りてった。それが俺があいつを見た最後だった。
帰り道、警察から話し掛けられた。「失礼。そこで通り魔事件があったのですが犯行現場を見ておられなかったでしょうか?」
「いえ……今通ったばっかりなので、その事自体今知りました……」
「そうですか、いや7人もやられてて、死傷者も出てるんですよ……」
「そうですか……すみません……」
「いえいえ、まだ犯人が捕まっていないので、気を付けてくださいね」
「はい、分かりました」
家に帰ってゆっくりしていると電話が鳴った。エリカの家からだった。
「もしもし藤堂です。」
「エリカが……エ…リ……カが……」
「エリカさんがどうかしたんですか?」
「エリカが……死にました……」
……俺はその後の記憶が無い。
後から聞いたが、病院側があまりに痛々しいので遺体にあわせてくれなかった事。
警察も犯人を捕まえたが詳細は被害者側にも捜査中として教えてくれなかったらしい。
その日から俺は学校にも行かなくなったし、外に出かけるのもやめた。
人との接触をさけるようになった。この世の神を呪った。
人々を平和にするのが神の仕事ではないのかと問いつづけた。
そして何も出来なかった自分を呪った。
そして神を信じなくなった。
そんな日が一年続いた。もう自分が存在する意義ですら失い、何故生きているのかすら分からなくなっていた。
あの日から今日で一年……。
俺もあいつを追い、今日死のうと心に決めた。
エリカと最後を過ごしたあの場所で死のうと決心し、あの丘に向かった。あの日と同じ雪の日だった。
自分の心が大きく変わってしまったあの日からまったく変わらない夜景がそこにあった。
俺はしばらくそこでエリカとの思い出に浸った。
あの日に帰りたい……何度願ったか……だが、神の答えを聞こうとは思わなかった。エリカを奪ったあの神に頼りたくはなかった。
それ以前に分かっていたのかも知れない。失った命は二度と帰っては来ないと……。
どんなに科学が進歩してもこれだけは過去著名な科学者達が挑み続け挫折を味わい、不可能であると実証されていることを……。
悔しくて涙が出てきた。あの日全ての涙を出してしまったかの様に涙が枯れてしまっていた俺に再び涙が零れた。
やるせない気持ちがあふれ出てきて、叫ばずにはいられなかった。
意味はない。ただこの社会に向けて何かを残さなければ、エリカや俺の死が無駄になる。何故か体が勝手に動いた。
ただ一言「馬鹿やろう」と……。
その時だった。急に周りが明るくなった。