第一部・2:"the raison d'etre"
眼下に大都市の夜景が広がっていた。
突然、彼は「目を閉じてみて」と言った。
言われるがままに、僕は目を閉じた。
それから5秒位だろうだろうか。「いいよ」と言われて目を開ける。
さっきと何一つ変わらない光景が広がっていた。
「一体何なんだよ……意味わかんないよ」
すると彼は、
「目を閉じて外界と一度自分を遮断する、その刹那自分の時間は停止しているが、世界の時間は動いている。この時間は誰も干渉できない。自分はその時間は止まっているとおもっているが、外界は動いているとして理解する。つまり干渉できない、相容れない関係がそこには存在している。つまり、どんな人にも『絶対的存在でも干渉できない物があるんだ、それは、心であるかもしれないし記憶かも知れない』。俺にとっては、それが『今のこの国の神の存在を信じない事』であっただけなんだ。覚えていてほしい。我々には干渉してはいけないものが存在しており、干渉できないものもあるって事を……。お前にはあるか? 干渉してほしくない物、誰も干渉する事が出来ないものが。今のこの世の中は人間が元来持ち続けて進化をし続けた自己の内面の強さを、向上心を、自分を信じる心を完全に忘れてしまった。だから、人生を幸せにしようとする努力をしなくなった。まやかしのような存在に全てを委ねるようになった時点で人間は、人間であった事を忘れてしまった。人間って「神」の言う通りに生きる存在じゃなくて自分で考えて動く存在じゃないのか? 確かに今は社会を幸せにしたのは紛れも無く「神」だが、人々はそれで幸せなのか? お前は今幸せか? 俺は今の人々が心の底から「生きる」喜びを感じているとは思えない。定められた道をただ歩くだけ、何も変化の無い暮らし。聞けば答えが返ってくる淡々とした機械音。明日のテストの点数は? と聞けば「60点」のような答え。努力しても結果が分っている。努力しようとできるか? 思いが湧いてくるか? そんな決まった未来に夢を持つことが出来るか? 俺はこの国に未来はないと思ってる。この国は何かがおかしい。何か大きな別の力が動いているような、気がしてならない。だから、俺は「神」の正体が何なのか調べて見る。俺が生きて正体を見つけられるとは思わない。だから、これを託しておく。誰にも渡してはいけない。頼んだ、これが神に近づく鍵になるかも知れない」
彼は首に掛けていたペンダントを僕に渡した。
きれいなペンダントだった。
「これはあいつが俺にくれた大事なペンダントだ。だから大切にしてくれ」
「分かった。だから生きて帰って来て、僕の所に取りに帰って来ると約束しろ」と言った。
すると「分かった、善処する」といって彼は笑った。
僕が首にペンダントを掛け終えると彼は一言、「自分を思い出し人間の尊厳を思い出せ。そうすれば世界は変わる。俺もお前もそして世界も・・・」
そう言うと彼は遠くを見るような眼で遠くの眼下に見える礼拝堂を見た。
しばらく思いつめたような顔でしばらく黙り込んでいた彼は、ぽつぽつと話始めた。
「俺が何故この世界の神を信じていないか教えておく……」