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第七部・1:"The death that cannot happen in the world"

 正直に言おう。その少女は可愛かった。短めに揃えたさらさらした黒髪。

 目は丹念に磨き上げた黒水晶をそのまま嵌め込んだようだった。目鼻立ちもしっかりとしており、体は細く見えるが、それは無駄な筋肉を一切付けていないからだと分かった。少女なのにある程度訓練はされているようだ。この機関の方針だろうか。僕は思わず見とれてしまった。

 その少女は微笑みを浮かべ、言った。

「……もしかして、あたしに見とれちゃったり?」

 はい。とはさすがにいえないだろう。こういう時はさりげなくほめるのが礼儀だ。

「はは。見とれてないけど、凄く可愛いよ」と僕は言った。

 少女はまた微笑む。

「そろそろ食堂行かなきゃ、閉まっちゃうよ。怜」

「何で僕の名前を知ってるの?」僕はベッドから足をおろしながら言った。

「当たり前じゃない。さっき局長から紹介があったじゃない」少女は若干いらだちを見せながら言った。この顔も可愛い。「私は北条 D 美雪」

「美雪で良いわ。じゃ、行きましょ?」

 そう言うと彼女は先に歩き出してしまった。

「何よ怜のバカ……私のこと完全に忘れちゃってるじゃない……!」

 彼女が小さく呟いたのを、僕は聞き逃さなかった。


 目的地の食堂まで行くのに非常に骨が折れた…。

 なんせ、医務室というのは、医療棟の二階。

 食堂は訓練棟の三階……この棟を繋ぐのは、エレベーターとエスカレーターであるのだが、それがまた複雑であった。何回エレベーターに乗っただろうか……。

 記憶はないが、昔この場所を縦横無尽に駆け回っていたはずであろう過去の自分にえらく、尊敬の念を覚えた。

 移動中、北条美雪は色々話しかけていたようだが、一切覚えていない……。

 理由は簡単である。何しろ余裕がないのだ。

 この道順を覚えなければ、食堂に行けない。

 死活問題である。食堂に行かなければ、自分の生命活動を持続できない。

 そうすれば、自身は餓死というこの世の中では起こりえない死に方をすることとなる。

 餓死…思わず身震いをしてしまう。

 やっとの思いで、食堂にたどり着く。

「着いたわよ! ここが食堂ね! 本っ当に怜は、世話が焼けるわね!」


 いきなりこの言い草かよ……。


 ってか、まだ一度しか案内してもらってないぞ!!

 一度だけなのにあたかも、毎回のことのように言う北条に早くも嫌気が差す。

「おいおい、まだ一度しか案内してもらってないぞ……」

 僕が話しかける。


 うん。聞いちゃいねぇな……。

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