表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/12

第六部:"CHILDHOOD"

 …………

 僕は夢を見た。それが自分の経験から来る夢なのかは分からない。

 恐らく自分である子供が砂場で鳥の絵を描いている。

 僕が子供の頃の夢を見るのはこれが初めてである。

 その横に僕とお揃いの服を着た少年の姿。

 多分、これが亮なのだろう。

 亮は砂場に数字を並べては、消している。

 近づいてみると夢の中で僕は声をあげた。

 彼が書いていたのは、「オイラーの多面体定理」だった。

 オイラーの多面体定理と言うのは、膨らませると球になるような多面体の頂点、辺、面の個数をA、B、Cとすれば、A―B+C=2が成り立つという定理である。

 今の僕なら分かるが、常識的に考えて、小学一二年生が

 解けるような代物ではない。

 むしろ、大学生でも解ける人間はほとんどいない。

 それを何故、小学生が解いているのだろうか?

 夢も中の僕は何も分からないのか、亮に話し掛けている。

「ねぇ亮。それなにが面白いの? 数字並べたって何も出てこないじゃん」

 すると、亮は得意げに答えた。

「怜、これは位相幾何学の出発点の定理なんだ。これが解けるようになる事が、俺の今日の宿題だから」

「でも、こんなの小学校で先生に習わなかったよ」

 亮は不思議そうに聞いた。

「怜は授業を聞いてるの? 分かってる事聞いたって意味無いだろ?」

「でも、僕は、お母さんから、きちんと人の話を聞きなさいって言われたよ」

 亮は首を振って答えた。

「怜、大人になれよ、いつまでも母さんの言う通りにすることが、善じゃないんだ」

 すると、急に地面が暗くなった。後ろに人が立っているのだ。

 僕達の後ろに人が立っている。

「こら! 亮! なんて事を怜に教えてるの?亮もまだ子供でしょうが。まだ、一人で起きられない、料理も出来ないのに大人って言えるの?」

 どうやら母親のようだ。僕は、母親の記憶がほとんど無い。

 この夢で初めて母親を見た、が、顔が逆光で見えない。

「ごめんなさい、母さん。でも、学校の授業面白くないもん」

 亮は拗ねたように答える。

 すると、母親は亮の頭を撫でて言った。

「亮、早く大人になりたかったら人の気持ちを良く考え、人の言う事をしっかり聞くことが、一番の近道よ」

 亮は頷いて母親の手を握った。

「さぁ、怜も帰るわよ。今日の夕食は二人の大好物のカレーよ」

 僕らは母親の手を握って夕日を背に帰っていく。

 すると場面が変わったように反転して、自分が部屋で寝ている場面になった。

 誰かが僕の手を握っているのが分かる。

 が、姿が分からない。

 すると、僕の感覚が寝ている僕の中に入っていくような感覚があった。

 手に暖かい感覚がある。とてもあったかくて、大きな手だった。

「父さん?」

 僕が話し掛けると、影が答える。

「心配せずに寝なさい。明日も早いから……」

 そこで、僕の意識はまた遠のいていった。


 …………

「…きて……起きなさいって」

 誰かが話し掛けているようだ。

 だが体は石のように重たく動かない。

「ったく怜はいつになったら一人で起きれるようになるの? ホントに…子供なんだから……」

(なんだか懐かしい声だ……あ……母さんかな?)

「待って、母さん、もう少し寝させて……」

「何言ってるのよ。私はあなたのお母さんではありません」

(……は?どういう事だ?)


 ここで僕は目が覚めた。

 目を開けると蛍光灯に照らされた白い天井が見える。

 眩しくて暫く目を細めていると急に布団を剥がされた。

 暖かさが急に無くなって意識がはっきりする。

「はい、早く食堂に行くよ。私もお腹すいたから。」


 これが彼女との出会いと言うか、再会だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ