第五部・2:"REST"
「あ―いらいらするな。なんでこのコンピューター、
要求してない情報を表示するかなぁ?」
『霧島主任の血糖値の正常値オーバーを確認。即刻、食生活の改善を要す』
「余計なお世話だ! 毎回毎回勝手に俺の血糖値測りやがって。お前は空気を読め! 俺らが食生活を気にする生活を送れる訳無いだろうが!」
『霧島主任の血圧上昇を確認、収縮期血圧一四五mmHgと確認。高血圧の可能性あり、即刻対処法を表示します。また、余計かも知れませんが、私はコンピューターであり空気を吸う事が出来ないため、味、匂い等の人間の五感で感じる事の出来る概念が分かりません。空気を読むと言う行動は具体的にはどのような行動なのでしょうか? また、空気が透明な気体にも関わらす何故読むことが出来るのでしょうか? 今後の任務の為、是非学習しておきたいのですが』
「ん―……だんだん破壊衝動が芽生えて来たぞ……。大体な、全部余計だよ!お前は黙って情報収集してろ! もしくは暫くROMってろ!」
すると僕らの目の前にある大きなモニターに
大きな字でこう映し出された。
『霧島主任のナンセンスな要求を却下します』
これには司令室の全員が笑った。
だが霧島主任だけは血管が浮き出そうな位な真っ赤な顔をして叫んでいる。
小林さんが僕に嬉しそうに話し掛けてきた。
「怜君、これがロンギヌスの最大の娯楽の一つさ。あのコンピューター『Veronica』と霧島主任の漫才は仕事でストレスの溜まった職員に癒しを与えているんだよ。ただし、霧島君だけは、ストレスが三倍になるがね。かわいそうな霧島君……」
と言いながら、少しも哀れみの表情が無い。
むしろ、嬉しそうだ。なるほど、小林さんの人格を垣間見たぞ。
そんな小林さんに大学教授風の男性が話し掛けた。
「局長、そろそろ時間も押している事だし、先に進めないか?」
(……この人局長だったんだ。やっぱり記憶が無いぞ……)
すると小林局長は慌てて僕に自分の横に来るように促した。
僕が隣に行くと、ハンズフリーマイクを付けて話し始めた。
声が部屋中のスピーカーを経由して聞こえる。
「諸君!いつも任務ご苦労様。特に霧島主任!君の頑張りはいつも見ているよ、ボーナス増やしてあげようか?」
すると霧島主任はまじめな顔で、
「ボーナスよりもVeronicaの暴走を止める事を心から望みます。あいつが普通のコンピューターになれば、俺の作業効率がぐっとアップするので……」
すると、小林主任は真顔で答えた。
「主任のナンセンスな要求を却下する」
するとモニターに大きく文字が表示された。
『局長、ナイス センス!』
(これ、笑う所なのだろうか・・・?)
小林局長は満足そうに話しを進めた。
「仕事を中断してまで、聞いてもらう話は一つだけだ。我々のエージェントだった、藤堂亮が残念だが、殉職した。有能であった彼を失う事はかなりの痛手であるが、我々に悲しんでいる暇はない。一分でも早くこの情勢を打破しなくてはならない。我々に人類の運命がかかっているからだ。私は信じている! 我々は間違えていないと!我々が人類を救う唯一の存在であると! そして必ず人類を解放してみせると! 我々が諦めてはならない! どんな逆境にあっても我々は進み続けなければならない! 諸君! 歩みを止めるな! 互いに仲間を信じあい、そして夢を叶える為に! 自らを捨てる覚悟を持ち進みつづけろ! 私は諸君を信じている! そして諸君も私を信じてくれ! 私は諸君を裏切らない! 我が命が尽きるまで!」
言い終わると暫く黙って何もしゃべら無かった。
暫くすると彼はまた話し始めた。
「そんな我々にちょっとした嬉しいニュースだ。四年間、ずっと情報収集任務に当たっていた藤堂怜が本部に帰還した。久しく顔を見ていなかっただろう? かなり昔より逞しくなったぞ。だが、四年間の任務の間に我々の事をほとんど忘れてしまっているようだから、諸君の顔を見ても分からないかも知れない。まぁしばらく立てば思い出すだろうから焦らずに待ってくれ。」
全員に自分の紹介をし終わった後、局長は僕に休むように伝えた。
確かに色々ありすぎて、体はもうくたくただった。
自分の部屋が準備されるまでの暫くは医務室で休むことになった。
僕は医務室に案内されるとすぐに深い眠りに落ちた。