第22話「天敵」
ピィ~ン♪
再び気配が、いや五感が地面を伝って足音を捉えた。
ビリリと肌(?)を差す感覚と、ミユちゃんバグセンサーからもかなり近い位置に敵がいるのが分かる。……分かるんだけど──。
なのに──どこにいるか全くわからない!
「くっ! 厄介なー。こいつも多分高レベルだな」
CランクかBランクか知らないが、
かなりの手練れなのは間違いない。
そのへんの雑魚の冒険者なら、す~ぐに足音で判別できるが──コイツはそうはならない。
かすかに足音を捕えることができたのも、一重にミミックの特性にほかならない。……実際はほぼ無音で動いているのだろう。
……ちっ。
「ミユちゃんセンサーからすると、もう部屋の外かな?」
まずいなー。
もう、とっくに遅いかもだけど、やることはやっておこう。
「フンッ! 回収──&清掃からのログで配置調整!」
……パパパッ!
ステータスを開いて設定画面を弄ると、
あっと言う間に、室内が再調整されていく。
まずは回収コマンドで、死体と装備の回収。
そして、清掃をして染み付いた血や肉片なんかもある程度綺麗にして、
最後に、『ログ』のコマンドで家具を再調整していく。
このログというのは、模様替えしたあとの部屋をいくつか記録しておける機能で、何度も同じ作業をせずとも、記録した部屋を自動で再現してくれる便利機能だ。
ちなみに、ポイントは10使用で、
部屋のネームログは『錬金工房』だ!
おかげで一瞬にして、荒れた室内が錬金術師工房のそれにに切りかわったが……くそっ! さすがに死体の臭気までは誤魔化せないよな!
なんなら、さっきまで死体があったし、回収である程度の死体はストレージに入るし、清掃では表面までは片づけられけれども匂いまではすぐには消せない。
とくに、今回はだいぶぶちまけたからなー……具体的にはアンゲナス君ビームで!
あとは、嗅覚をくすぐる、少女(?)の血の甘い匂いと食欲をそそる臓物臭。
それにマッチョたちの汗と血の匂い。
「床はともかく、空気中に拡散してる分はさすがに無理かー」
臭気については時間が解決するが、
……今からじゃ無理だわな。
「でも、一応は換気換気ー!」
スーハースーハー!
──レッツ、深呼吸!
効果あるかしらんし、そも「私」って空気吸ってんのかな?……まぁいいや。
「よっし! こんなもんかな? とりあえず、敵が突入してくるまでになんとか体裁は整えられたぞー」
匂いは……うん。違和感が仕事してくれ!
「一見して錬金工房だし、その匂いってことで誤魔化せるかも」
ミユちゃんがここに見えていたら、耳元で無理無理無理とか言ってそう。
っていうか、多分すぐ近くで言ってる気がする。
「──まぁ、とにかく最初が肝心!」
人間第一印象が8割っていうしね!
なので、気持ちを落ち着けて敵の侵入を待つ。
幸いにも、ログを使ったことで部屋の前には見通しを防ぐ柱が復活している。
これならば、さっきみたいに壁ごとぶち抜かれない限り、奇襲は成功するはず──。
だから、まずは慌てず落ち着いて一匹を確実に……。
話はそれからだ!
ミミックは、奇襲してナンボだからね──────ポタリ。
「ん?……水?」
何かが肌(?)、というか箱の表面に触れたかと思って、
ふと視線を上に向けると──。
「ッ?!」
…………息が止まった。いや、息があるか知らんけど。
それくらいに衝撃を受けた。
だって、
だって──。
「……う、上からって、あーた──」
「ふんっ。何やら、ぶつぶつ言ってる魔物がいるかと思えば──貴様、ミミックか」
嘘ぉ~ん。
い、いつのまに上ったのー?
「全然気づかなかったー」
見れば、
身体に滴った液体は、なんと天井に張り付いていた女のナイフから垂れた物だった。
それも紫の液体で、触れた宝箱の表面がジュッ! と音を立てることからも……うひぃ! 毒だこれ!──多分効かんだろうけど。
「……つーか、怖いわ!」
ホラーかよ!
上を見たら、エッチぃな恰好をした女忍者みたなのがダラ~ンて垂れてたら誰でもビビるわーい!
「ふんっ。魔物のくせに何を恐怖する──そもそも、罠を避けるために天井を這うのは基本だ」
なんな基本、初めて聞いたわ!
たしかに天井に罠ってあんまりないだろうけどさ──!
「くっそー! お前、ローグだな?!」
罠を感知し、
ダンジョンの先陣を切る冒険の水先案内人!
──そして、熟練したそれはまさに、ミミックにとっての天敵だ!
「はっ! 魔物ごときに答える舌を持たぬ。それよりも、数々の遺品に……これはお姉さまのものか。──貴様、お姉さまをどうした?」
あ?
お姉さまだぁ?
「……誰だか知らないけど、その辺の遺品の持ち主だったら食ったよ?」
全員。
あますことなくボリボリと!
「な! く、食っただと?!」
「あったりまえじゃ~ん!」
こちとらは生まれたときからミミックだよ?
そこに人間がいたら食うでしょ?
「っていうかさー。ノコノコとこっちのテリトリーに踏み込んどいて、なにその言い草?」
舐めてんの?
天井にぶら下がって勝ったつもり?
「あと、魔物に答える舌がないって?」
「なに?」
残念!
「こっちには舌があるんだよ──!」
「ぬっ!」
あはは。
ミミックの攻撃が噛みつきだけだと思ったか?!
甘いねッ、先手必勝!!
舌撃&ミユちゃんナ~~~イフ!!
シュンッ!
大口を開けて、舌から掬い上げるようなナイフの一撃!
どうだ! 天井にいちゃ、これを躱せまい。
そのまま空中でバランスを崩して、落ちろ──丸っとボリボリ食ってやる!
「あーっはっは! お姉さまに、今から会わせてあげるよー!」
そして、胃袋の中で再会しなッ。
ローグ女の踊り食い、いっただっきまーす♪
「ふんっ! それで強襲したつもりか──……あまいわっ!」
「な?! あがっ」
──ガコンッ!
ナイフに追われて振り落ちる女を、そのまま食ってやろうと口を閉じようとしたら、
なんと、ガッ! と足で口の縁を抑えられる! おかげで口が閉じられず、もちろん、女の方もすっごい開脚してる!
「あ、あがががががっ!」
「はっ! 力は上々!──だけど、口臭は最低だな!」
そ、そりゃどーも!!
……って、なんか口に入った?!
「あべべべべ!? な、なにいれ──」
「ふんっ、終わりだ。化け物──!」
言うなり、ムーンサルトを決めた女が、綺麗な脚線美を見せつけつつ飛びすさる。
もちろん置き土産付きで──!!
ジジジ……!
「っ?! こ、これは──?!」
舌先を刺激する火花の味と。
そして、ピリリと辛い……火薬の?!
って、
「──爆弾かぁっぁああ!」
そりゃ、こちとらミミックだからね!
口に入ったものの感触はよ~くわかるんだよ! だから、すぐに爆弾と看破できたわけで。
──オエエエエエエ!
「な?!」
なので、すかさず嘔吐!
──……甘いのはどっちだ!
「変なもん食わしやがってー!」
くらえ!
倍返しだー!!
気合一閃!
口の中から飛び出したのは、さっきまで食べていたチビっ子の骨と肉片と内臓と──そして、導火線に火のついた漫画爆弾だ!
「ちぃぃぃい……!」
どうやら吐き出されるとは思っていなかった様子。
かろうじてあの忍者が空中で爆弾を蹴り飛ばすが、火薬を練りこんだ導火線はそう簡単に消えはしない。
だが、あの女も爆弾を躱すのに夢中だったのか、追撃の『ちびっ子肉片ビーム』をもろに食らう!
「あう!」
はっはー! 命中ぅ……!
そして、離れたところで爆発ぅッ!
チュドーーーーーーン!!
「あー! せっかく部屋を直したのに!」
誰にも命中しなかったが、凄まじい爆風が部屋を突き抜ける。
もっとも、その影響は甚大だ。
──特に部屋!
「ちっくしょー! 復帰にポイント10くらい使ったんだぞ!」
貴重なポイントをさー!
あーもう、怒った!
「う、うぐぐぐ……」
舌を伸ばすと、
爆風とちびっ子ビームで満身創痍の女がいる。
──あはは、自爆とはいい気味だよ!
「さ~て、どうしてくれようか。……そーだ! お前は足先から、少しずつ食ってやろーかなー!」
悲鳴を聞きながらボーリボリとね!
そんでポイントをゆっくり返して貰うのだ!
「いっただっきまーす♪」
「ちぃぃ……! 全員援護を!」
え?!
ぜ、全員?!
「……って、うそぉぉ?!」
い、いたの?!
他にも仲間がいたのー?!
そう、驚いたのも無理からぬこと。
まったく感知に引っかかっていなかったはずなのに、壁やら家具の裏やら、その辺の陰から女どもがワラワラと──……まさか、全員ローグ?!
「しかも、忍者?!」
「「「「忍者ではないわー!」」」」
いや、ハモんなや。
つーか、忍者やん。
しかもエッチぃ系の……。
「えー、ドン引きぃ」
黒のリーダー女の他、
赤、青、緑って……戦隊ものですかぁ?
しかも、おそろいの網タイツに露出高めのエッチぃ忍者服。
「ふんっ! もはや遠慮はいらぬ──お姉さまがここで散ったなら、弔い合戦だ!」
「「「おぉ!」」」
いや、「おぉ!」とか、弔い合戦とか前時代的やな──……ま、しかし、これで全員か。
ならば、ここから本番だな!!
いいだろう、全員たべてやる~!
「いっくぞー!!」




