第79話 選ぶ世界
世界は、一つの形にはならなかった。
境界管理体制は、確かに広がっている。
装置は増え、技師は育ち、制度は洗練されていく。
多くの街が、それを選んだ。
安全で、効率的で、責任が明確だからだ。
だが――
すべてではない。
「この街は、全面導入です」
都市部では、境界管理が“前提”になっていた。
装置がない場所は、不安視される。
「なぜ、置かない?」
「危険じゃないのか?」
そう聞かれて、
地方の代表は肩をすくめる。
「危険ですよ」
「でも」
「それを含めて、選んでます」
管理を選ぶ街。
管理を部分的に選ぶ街。
最低限しか使わない街。
どれも、消えていない。
「……混乱しませんか?」
技師団の若手が、エルドに聞いた。
「統一した方が、楽でしょう」
エルドは、少し考えてから答える。
「楽だろうね」
「でも」
「世界は、楽を選ばないこともある」
その言葉は、
かつての彼なら、口にしなかった。
管理が進むほど、
“選ばない理由”が目立つ。
被害が出る街。
復旧に時間がかかる街。
非効率な判断を繰り返す街。
それでも――
消されない。
夜。
丘の上で、
アレンは街の灯を眺めていた。
均一ではない。
まばらで、不揃いだ。
「……バラバラだな」
旅装の男が、隣で言う。
「……ああ」
「統一しないのか?」
「しない」
アレンは、即答する。
「できるだろうが、しない」
「なぜだ」
「選ぶ余地が、消える」
管理された安全。
不完全な自立。
どちらも、間違いではない。
だが、
一つにまとめた瞬間、
“選び直す可能性”が消える。
「世界は」
アレンは、静かに言う。
「選び続ける場所だ」
「正解を固定したら」
「それは、世界じゃない」
旅装の男は、何も言わず頷いた。
遠くで、鐘が鳴る。
どこかの街で、
境界が出たのだろう。
管理されるか。
人が動くか。
あるいは、両方か。
答えは、一つじゃない。
追放された無能魔術師は、この日――
**世界が、同じ方向を向かなくても、
それ自体が“失敗ではない”と、
はっきり受け入れた。**
選ぶ世界。
迷う世界。
不完全な世界。
それらすべてが、
まだ――生きている証だった。
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