第39話 不在の影響
その知らせが届いたのは、翌日の昼だった。
「……北の集落で、問題が起きた」
ロイドが、重い声で言う。
「魔物被害じゃない」
「だが、住民が数人……行方不明になった」
嫌な予感が、胸をよぎる。
「場所は?」
「旧鉱道跡」
「……お前が、断った依頼の場所だ」
俺は、黙って地図を見る。
昨日、掲示板にあった依頼。
“助言のみ”を求める、あの案件。
(……やっぱり、か)
「誰が対応した?」
「別の冒険者パーティだ」
「腕は、悪くない」
ロイドは、続ける。
「だが」
「“何も異常はない”と判断して、帰った」
俺は、目を閉じた。
責める気は、ない。
彼らには、見えなかった。
見えるはずもない。
「……被害の状況は」
「夜になって」
「集落の外れで、急に音が消えたらしい」
胸の奥で、確信が形になる。
(……境界、だ)
あの時、子供が言っていた感覚と同じ。
「……行きます」
ロイドは、頷いた。
「だろうな」
「だが、気をつけろ」
「今回は」
「お前が“選ばなかった場所”だ」
現地は、重苦しい空気に包まれていた。
泣き声。
不安。
だが、怒りはない。
住民の一人が、俺に頭を下げる。
「……あんたが、来てくれてよかった」
「遅れました」
それだけ言って、俺は周囲を見る。
魔力は、正常。
地脈も、安定。
だが――
(……薄い)
世界の“膜”が、ここだけ弱くなっている。
「……リーファ」
「無理に近づくな」
「はい」
俺は、意識を研ぎ澄ます。
力は使わない。
流れも変えない。
ただ、境界の“ずれ”を認識する。
しばらくして、
空気が、ほんの一瞬揺れた。
「……あった」
倒壊しかけた坑道の奥。
音が、消えている。
俺は、一歩踏み出す。
次の瞬間――
景色が、反転した。
だが、すぐに戻る。
中には、二人の住民が倒れていた。
息は、ある。
「……大丈夫だ」
「もう、戻れる」
応急処置を施し、
境界の“歪み”を静かに均す。
数分後。
坑道の奥にも、音が戻った。
外で待っていた住民たちが、息を呑む。
「……何が、起きてたんですか」
問いに、俺は正直に答えた。
「境界です」
「魔物でも、呪いでもない」
ざわめき。
「じゃあ……」
「誰が、悪いんだ?」
「誰も」
俺は、首を振った。
「ただ」
「気づける人間が、いなかった」
沈黙が落ちる。
その言葉は、責めではない。
事実だ。
帰り道。
リーファが、小さく言った。
「……断って、よかったんですか?」
俺は、少し考え――答えた。
「断ったことは、間違ってない」
「でも」
「俺が“いない”場所では、被害が出る」
それが、現実だ。
力を持つということは、
選ばなかった場所にも、影を落とす。
それでも。
(……全部は、背負えない)
だからこそ、線を引いた。
追放された無能魔術師は、
この日――
自分の“不在”が、
世界に与える重さを、初めて実感した。
それでもなお。
彼は、
冒険者でいることを、選び続ける。
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