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ダイヤモンドの婚約者~色褪せないきみと、いつか巡りあう日まで~  作者: 夜音
第1章

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9 誓い

 「アメトリン王国第二王子、フィクシス・アメトリン。そなたの愛はここに立つエウリラ・アステリアス、ただひとりに捧げると誓うか?」


 儀式の間にタイモンの声が優しく響き渡った。


「婚姻の儀をやり直したい」と何度もフィクシスに頭を下げられ、頼み込まれた。当初は難色を示していたタイモンだったが、熱意と深い愛についに折れる。


 儀式でエウリラが元に戻らなければ、「やはり王子の愛は偽りだった」と王家の権威が脅かされる可能性がある。タイモンは国王から非公式でという条件でやり直しを取り付けたのだ。


 だが、最も難航したのはエウリラの両親へ許しを請うことだった。


 フィクシスは連日、伯爵邸を訪れた。当初は玄関先で追い返されていたが、連日頭を下げ跪くやつれた姿が、頑なだった二人の心を少しずつ溶かし始める。後悔と謝罪、そしてエウリラとの思い出を語る彼の言葉と真摯な姿に、オーリガは苦渋の表情でやり直しと参列を了承したのだった。


 参列席では、兄のリンクス、エウリラの両親であるオーリガとラケルタが、不安と怒りの混ざった表情で座り、その隣には弟のファルが控えていた。


 この場にディナトスの姿はなかった。彼も父としてフィクシスの誓いを見届けたかったが、国王の立場が許さなかったのだ。


「ここにいる皆に誓います。もう二度と彼女以外誰も愛さない。もし、この誓いを破る日が来たら、この命を持って償います。永遠に、生まれ変わったとしても、エウリラだけを愛します」


 ひとこと毎に覚悟と決意を込め、ゆっくりと宣言する。エウリラの冷たい頬を両手で包み唇にそっと口づけを捧げた。


 フィクシスの言葉に、オーリガの厳しい表情が和らいだものへと変わっていき、ラケルタは娘がダイヤモンドになった悲しみと、それでも深く愛されているという事実を噛みしめ涙を溢す。涙声のファルは「……姉上をよろしくお願いします」と小さく呟いた。


 ステンドグラスから降り注ぐさまざまな色彩が、ふたりを祝福するかのように包み込み染めた。



 *



 それから数年後。


 フィクシスは第二王子としての責務を果たしつつ、タイモンの下で神官見習いとして歩み始めていた。


 いつものように儀式の間に向かうと、兄リンクスの幼い子供たちが、ダイヤモンドのエウリラを見上げていた。


「わあ、きらきらしてる。とってもきれい」


 王女が無邪気に声を弾ませる。


 王子はフィクシスに気づき駆け寄ってきた。  


「叔父上! 叔父上は、この女の人が好きなの?」


「そうだよ、大好きだよ」


 その顔は、過去の苦悩が薄れ深い愛情が宿っている。


「どうしてダイヤモンドになっちゃったの?」


 純粋な問いかけにフィクシスは子供たちの目線にしゃがむと、二人に諭すように語りかけた。


「叔父さんが彼女を傷つけてしまったんだ。君たちは、僕みたいに間違えちゃ駄目だよ。いちばん大切な人をちゃんと守るんだ」


 子供たちはまだその言葉の意味を理解できなかったが、キラキラとした笑顔でにっこりと頷いた。



 *



 数十年の時が経ち、神官長としての日々を送るフィクシス。


 アッシュブラウンの髪には、白いものが混じり、顔の皺がこれまでの歴史となって刻まれている。その手には、頂きにアメトリンを載せた細かな彫刻の施された木製の杖。


 一日も欠かさず通い続ける儀式の間への道のり。若い神官たちがフィクシスに気づき会釈する。通り過ぎると、ひそひそと話す声が彼に届いた。


「神官長様は、本当にダイヤモンドの像がお好きらしい」


「なんでも、あの像を守るために王子の身分で神官になられたそうだ。すごい献身だよ」


 小さく微笑み、そのままエウリラの元へと向かう。


「やあ、エウリラ。君は今日も美しいな。私はすっかり歳を取って、あの頃の面影もなくなったよ」


 穏やかな眼差しで透き通る彼女を見つめるながらふと思う。


 ──だが、君の髪は何色だったろう。


 君の瞳はどんな色で私を映していただろう。


 君の声は、どんな音色で私の名を呼んでいただろう。


 忘れたくないのに思い出せない。こぼれ落ちる記憶を掬い上げ、またこぼれ落ちる。その繰り返しだ。


 記憶の奥底に眠る愛しい人の輪郭を辿ろうとするが、かつて鮮明だった記憶も長い年月が過ぎるうちに少しずつその色を失いつつあった。


 エウリラの色が記憶から薄れてしまっても、この場所で誓った愛だけはずっと色褪せない。


 フィクシスは静かにエウリラに歩み寄ると、隣にゆっくりと腰をおろし杖を脇に置いた。ひんやりした彼女の膝に頭をそっと凭れかける。


 ステンドグラスから温かい光の雨がフィクシスとエウリラに降り注いでいた。


 薄れゆく意識の中、脳裏に鮮やかに蘇ったのは、生け垣から顔を出したあの少女の姿。栗色の髪、蜂蜜色の瞳、そして楽しげな声。


「やっと、思い出せたよ……」


 フィクシスは最愛の人の隣で静かに息を引き取った。


 儀式の間に鎮座する『ペルフィナの涙』だけが二人の愛を見届けたのだった――


ここまで読んでいただきありがとうございました。

第1章フィクシス編完結。

次話から火木土日投稿の予定です。

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