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ダイヤモンドの婚約者~色褪せないきみと、いつか巡りあう日まで~  作者: 夜音
第1章

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7 後始末

 あれから数日。


 王城の執務室は、騒動の余波で慌ただしかった。


 事後処理を任された王太子リンクスは、日ごと増える書類の山を前に深い溜め息を漏らす。


「さすがにお疲れですかな、リンクス殿下」


 リンクスを補佐する宰相ネストルが肩をほぐしながら声をかけた。


 手にしていた報告書を机に一度置き目頭を指で押さえたリンクスは、「文字を追いすぎて目が回りそうだ」と疲れた笑みを浮かべた。


「……だが、ネストルが参列者たちへ厳重に箝口令(かんこうれい)を敷いてくれたおかげで、今のところ外部には噂程度の情報しか流れていない。助かったよ」


 執務机の上は報告書で埋め尽くされている。


「スフェル侯爵の件ですが……」


 ネストルの言葉にピクリと眉をひそめた。


「まだ罪を認めていないのか?」


「はい。『娘は無実であり、フィクシス殿下に弄ばれた』と主張しております。ですが、調査の結果、フィクシス殿下に飲ませた薬は媚薬であり、その手配は侯爵本人であると判明いたしました」


「白々しい戯れ言だな。証拠はすべて揃っている。何より、私はあの場で見聞きしたのだ。あの女が仕組んだことは明白だ」


「……さらに、侯爵がエウリラ嬢の暗殺を企てていた証拠も掴んでおります」


「娘の恋心を利用し、暗殺まで企て……あの男はそこまでして、王家と連なりたかったのか?」


 書類を掴む手に力がこもり、クシャリと音をたてた。


「メルティカ嬢ですが、時折『ぺルフィナの呪いが……』と錯乱状態に陥っているそうで、精神を病んでしまったのでしょう。それに、火傷の痕も一生消えぬ、と」


 自業自得とはいえ、後味の悪い結末が心に影を落とす。


 ──燃え盛る炎。皮膚が焦げる匂い。おぞましい光景が脳裏によみがえる。


 それでもリンクスはすぐに表情を引き締めた。


「……そうか。だが、王家として情けをかける余地はない」


「ええ、問題は、それに乗じて動く連中です」


 リンクスは顔を上げ、父譲りの冷徹な視線をネストルに向けた。


「父上は、この機会を逃すまいとなさっている」


「今回の件は、王家にとって最悪の事態であると同時に……体制を固めるための好機でもあります」


「ぬかりなく頼むぞ、ネストル。これを機に王家に敵対的な姿勢を見せる者どもは徹底的に排除する」 


「心得ております」


 ネストルが深く頭を下げた。


「侯爵家の処罰は重いものになるだろうな」


 皺の寄った書類を見つめ、リンクスは重々しく呟いた。


「恐らくは、北の地へ送られるかと。二度と陽の下を歩くことはないでしょう」


「……いずれ、フィクシスとエウリラのことも公表せねばな。いつまでも隠し通せる話ではない」


「慎重に時期を見計らいましょう」


 窓の外はすでに夕闇が迫っていた。





 王宮の片隅。儀式の間に隣接するタイモンの研究室には、壁一面の書棚に古びた神学書や歴史書が並ぶ。窓の外は漆黒の闇。室内を照らすのは燭台の小さな炎のみ。


 ディナトスが簡素な椅子に深く腰かけていた。


「夜分にすまんな、タイモン。……『ぺルフィナの呪い』が解けた例はないのか?」


 タイモンは神妙な面持ちで小さく首を横に振る。


「過去には、両目や左腕がダイヤモンドとなった者がおりますが、残念ながら、呪いが解けたという文献は歴史を遡っても見つけることはできませんでした」


「……そうか、呪いは解けぬか」


 ディナトスの顔には深い絶望の色。


 壁一面の古びた書籍を眺める横顔は、冷徹な国王のものではなかった。ひとりの父親としての深い憂いが浮かんでいる。


「フィクシスは、まだエウリラのそばを離れずにいるのか?」


「はい、食事も喉を通らないご様子で……」


 朝も晩も片時も離れずに彼女に語りかけているフィクシスの姿を思い出しながら、タイモンは静かに応じた。


「……祈るしかないのか。タイモン、すまないが息子の様子を気にかけてやってくれ」


 タイモンは大きく頷くと、ディナトスの想いを胸に刻み込んだ。


 父としては、弱っている息子を抱きしめて哀しみをともに背負いたかった。だが、国王という立場がそれを許さない。


 王家の威厳を守るため、国の混乱を最小限に抑えるためには、冷静に事態を収束させなければならないのだ。


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