4 後悔
ステンドグラスから差し込む色とりどりの光が、透明な宝石となったエウリラを染める。
先程まで希望に満ちていた儀式の間は、重苦しい沈黙に支配されていた。
長椅子には王妃カリーナと王太子リンクス、意識を取り戻したエウリラの母ラケルタが座り、父オーリガと弟のファルが寄り添う。
ラケルタは、透明な娘の姿を見つめながら未だに信じられないといった様子で虚ろな表情で呟いた。
「嘘でしょう。今朝、あんなに幸せそうに笑っていたのに……」
「ああ、ラケルタ様。……本当に、申し訳ありません」
青ざめた顔で胸元を押さえながらカリーナがなんとか言葉を紡いだ。
オーリガは怒りに震えながらも、王族を前にし怒りをぶつけることも出来ず、言葉を失いただ拳を握りしめている。
フィクシスを挟む形でディナトスとタイモンが立つ。
「どういうことだ? フィクシス、答えるのだ。エウリラ以外にも、愛を囁いた相手がいたというのか」
参列者たちの前では崩さなかったディナトスの冷静な表情が怒りと苦渋に歪んでいた。
「っ……違います。違います父上! 愛してなどいません、ただ、誘われて……酒を飲んでから、記憶が曖昧で……」
絞り出す声は、語尾に向かうにつれてか細くなる。全身から力が抜けたフィクシスはエウリラの足元で項垂れていた。
「酒のせいだとでも言うのか?」
低く威圧感の滲む声ディナトスが問いただした。
フィクシスは石畳に落ちる自身の涙を見つめることしかできない。
「フィクシス、おまえはこの国の……王家の歴史を忘れたのか!」
感情を抑えきれず一歩前に踏み出したリンクスの表情には弟への失望の色が浮かんでいた。
「王妃の呪いを知っていて、何故そのような愚かな真似を」
ディナトスの怒りと悲しみが混じった声が、頭上から痛いほど突き刺さる。
「迷信だと、幼い頃に聞かされた、ただのお伽話だと。呪いなどあるわけがないと。もし王妃の呪いが真実だと知っていたら、あのような過ちは犯さなかった……!」
途切れ途切れに絞り出す言葉は、涙まじり。
その時、軋みをあげて入り口の重厚な扉が開いた。一斉に向けられた視線の先に立ち尽くしていたのは、金色の髪をなびかせたメルティカだった。血の気を失った顔は遠目からでもわかるほどで、身体中をガタガタと震わせている。
「も、も、申し訳、ありません……わ、たくしが、わたくしが──」
おずおずと祭壇へと足を運ぶメルティカだったが、ディナトスの威圧的な視線に射貫かれ「ひっ」と短く悲鳴を上げ歩みを止めた。
しかし、メルティカは意を決して再び口を開く。
「わたくしがフィクシス殿下を……お慕いしてしまったのです。エウリラ様がいらしたのに、この気持ちを押さえきれず、想いを伝え、殿下から愛をいただいてしまったのです」
震える声で告白しながらも、金茶の瞳にはどこか歪んだ光が宿っている。
「この悪女が! 姉上の友人だと、信じていたのに……っ、よくも」
今にも殴りかかりそうなファルが父に押さえつけられながら叫んだ。
「嘘だ、愛してなどいない! 僕は……僕が愛しているのは、エウリラだけだ!」
項垂れていたフィクシスが顔をあげメルティカを睨みつけ叫んだ。
「あの言葉は、本心ではなかった……」
僕は、何故あんな真似をしてしまったのだろうか。愛しているのは、ただひとりなのに。
フィクシスの心は深い後悔に沈む。本当ならば、今日は人生で最良の日になるはずが、愛するエウリラはダイヤモンドになってしまった。
彼の脳裏には、忘れてしまいたいあの夜の記憶が甦る――




