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ダイヤモンドの婚約者~色褪せないきみと、いつか巡りあう日まで~  作者: 夜音
第1章

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1 王妃の呪い

 アメトリン王国には古くから伝わる伝説があった。


『婚姻の儀で王子が真実の愛を誓い、偽りだった場合、婚姻相手が宝石となる』


 遥か昔、初代ミードス王は剣の物語に目を輝かせる一方、政務は家臣たちに任せきり。戦が遠のけば酒に溺れ側室との閨に溺れていった。


 ただひとり、国を立て直そうと奔走する王妃ペルフィナだったが、嫉妬に狂った側室によって毒を盛られ命を落とす。最期の瞬間、彼女が「ただ愛されたかった」と溢した一筋の涙は、光を放ちながらダイヤモンドとなった。


 この悲劇は、やがて王妃の呪いとして語り継がれていく。


 以来、いかなる身分の者もダイヤモンドを身につけることは許されない。また、王家は呪いの連鎖を断つためか側室制度を廃し、『ペルフィナの涙』は国宝として祭壇に飾られ、真実の愛を問い続けている──





「よくお似合いです」


 お針子の甲高い声が部屋に響く。


「ありがとう」


 少し大袈裟なくらいの声色に気恥ずかしくなりつつもエウリラは笑顔を返した。


 婚姻の儀まで二週間。婚約者であるフィクシスから贈られたウエディングドレスを今日、初めて目にする。


 姿見に映るウエディングドレスは、腰の辺りから裾まで金糸で刺繍されたスズランが咲き誇っていた。


 ……(フクロウ)ではない?スズランは好きな花だわ。でも、ウエディングドレスに刺繍するならフィクシス様の紋章のはずなのに。


 新郎は、自らの家紋や個別の紋章を婚約者のウエディングドレスに刺繍し贈るのがこの国の伝統だ。


 アメトリン王国の王族は、家紋とは別に個別の紋章も持つ。第一王子である王太子のリンクスは鷲獅子(グリフォン)、その弟である第二王子フィクシスの紋章は梟である。


 伝統とは違う刺繍の理由がわからず、エウリラの表情がわずかに曇った。


「こちらの刺繍は、殿下からの強いご希望でございまして……」


 花嫁の不安を感じとったお針子が「王妃様も私共も伝統に則るようにと進言したのですが」と頭を下げながら告げた。


「強い、希望」


 金糸のスズランをなぞり、小さく呟く。


 伝統を曲げてまでスズランを選んだ理由とは何かしら。


 エウリラの母ラケルタが、視線を金糸のスズランに向けたままドレスの裾をピンと張り広げる。


「何故、このデザインになさったのかは、殿下に直接聞いてごらんなさい。エウリラ」


 不安の渦に呑まれかけたエウリラの意識を引き戻すラケルタの声。


 優しく常にまっすぐなフィクシス様のことだから、きっと意味があるはず。婚姻前は些細なことで不安になると聞いたことがあるわ。気にしすぎては駄目ね。


「はい、お母様」


 母娘のやり取りを頭を下げたまま静かに聞いていたお針子が、ドレスの説明に戻る。


「後はこれから、胸元にサファイアを縫いとめましたら完成でございます。装身具も同様の石で統一されております」


 作業机の上に置かれた装飾が施された小箱を手に取り、エウリラに差し出す。蓋を開ければ、フィクシスの瞳と同じ、またたく星空を映した蒼玉色の煌めきが。耳飾り、首飾り、そしてティアラが収められていた。


 こんなにも美しいサファイア、見たことがない。あの方は、私にこんなにも素晴らしいものを……。刺繍の意匠についても、私が聞けばちゃんと話してくださるはず。


 見えない不安に揺れつつも、フィクシスの愛情に感謝し、間もなく訪れる婚姻の日に胸が高鳴る。





 翌日、エウリラは友人のメルティカからお茶会に呼ばれていた。


 彼女はスフェル侯爵家の一人娘で、一年程前から頻繁にこうした会に誘われることが増えていた。エウリラは伯爵家の娘、本来なら身分の違いから親しくなることはなかっただろう。おそらく、フィクシスの婚約者だから声を掛けられるのだと感じていた。


「そういえば、昨日はウエディングドレスの試着だったのでしょう? 殿下の贈り物はどうでしたの? エウリラ」


 優雅な仕草でメルティカはティーカップを口に運ぶ。


「……とても素敵なドレスでした」


 動揺を悟られまいと笑顔を作った。


 自然な笑顔が出来ているかしら?彼女との茶会で鍛えられた口角はしっかりと上がっているはず。


「刺繍はどうだったの? 確か、フィクシス殿下の紋章は、梟、だったかしら」


 無邪気な表情で首を傾げると、美しい金色の髪がさらりと流れる。


「それは、当日のお楽しみになられてはいかがでしょう? メルティカ様」


 笑顔を崩すことなく返すエウリラ。


 わざわざ聞いてくるのは、もう既にスズランだと知っているのね。


 心の中で深い溜め息を吐いた。


「意地悪言わないで、わたくしたち親友でしょう?」


「……刺繍はスズランでした」


 誤魔化すのは無理だと諦め、努めて冷静に答えた。


「まあ! スズラン! 殿下の紋章ではなくて?」


 メルティカは待っていたと言わんばかりに真鍮を思わせる金茶色の瞳を輝かせ、大袈裟に驚いてみせる。エウリラの心は深く抉られるが、決して表情には出さない。余裕がないと思われてはならない。


 笑顔だけは忘れず、テーブルの下で両手を強く握りしめた。


 一秒でも早くこの時間が終わりますように。


 剥がれそうな笑顔を意地でも落とさない、と背筋を伸ばし目の前の()()に向き合う。


全27話で完結の予定です。

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