【第3話】荒らされた畑と、奇跡のシチュー
村の入り口で、ミナの小さな手を握ったまま、オレは門番の爺さんと向き合っていた。
「……誰だね、あんたら?」
灰色のヒゲをなでながら、爺さんは渋い顔をする。
「旅の料理人だよ。
村に泊めてくれないか? 代わりに美味いもんを作ってやる。」
「……ふん。泊めるもんはないさ。この村はもう終わりだ。」
村の中はひどい有様だった。
畑はところどころ掘り返され、麦は倒され、野菜は噛み千切られている。
「魔物……?」
オレがつぶやくと、爺さんは肩を落として言った。
「毎夜、森から群れでやって来るんだよ。見張りを立てても無駄だ。
駆除を頼める冒険者もいないし、飢え死にするのを待つしかない。」
その横で、ミナがオレの袖をぎゅっとつかんだ。
「……私のせいなの……。私が森で……畑の野菜を……。」
「違う。」
オレはミナの頭をぽんと撫でた。
「お前のせいじゃない。
どうせ捨てられた食い残しの匂いに魔物が寄っただけだ。」
「……でも……」
「大丈夫だって。」
オレは村の広場に立つと、大きく息を吸った。
「ハク、行くぞ。」
ハクが尻尾を振る。
オレは【無限料理庫】を呼び出す。
「《ヒーリング・ミートシチュー》。」
鍋から立ち上る湯気に、村人たちが集まってきた。
「なんだ、その匂いは……。」
「……腹減った……。」
オレは鍋を囲んだ村人たちに言った。
「ただの飯じゃない。
これを食った奴は腹が満たされるだけじゃない。
力がみなぎり、病気も治る。
……そして魔物を追い払う力を取り戻せる。」
村人たちは半信半疑だったが、スプーンを一口含んだ瞬間——。
「……っ……! 腰が……腰の痛みが……消えた……!」
「オレの手……震えが止まった……!」
爺さんが震える声で言った。
「本当に……本当に魔物を追い払えるのか……?」
オレは鍋をかき混ぜながら笑った。
「安心しろ。畑はオレが取り戻す。
ついでに魔物の肉で明日のシチューを作ってやるさ。」
ミナはオレの横で、すっかり頬を赤くして笑っていた。
小さな村の小さな奇跡。
それは、裏切られた料理人が最強になる序章にすぎない。