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読んでたら人によっては作品読みやすくなるかも

無名の異世界人は広い世界で旅をする。

作者: 莉咲

私が主に書くお話の世界の概念の説明その②と、その概念づくりにいつの間にか貢献(主に動植物の命名)してた転移女性のアバウトすぎる恋愛&子育てのお話です。

このお話単体でも楽しんでいただければ幸いです。

「うわっ!!これ絶対リンゴじゃん!!」


女は、木になっている赤い植物に手を伸ばした。


「むぅ、微妙に届かない⋯。」

「あれを取れば良いのか?」

「そうなの!!ありがとね魔王ちゃん!!」

「その呼び方をいい加減改め⋯、まぁ良い。」


女を横で見守っていた男は風の魔法で作った刃で赤い果実を枝から落とした。


「ありがとー!!」


彼女は嬉しそうにそれを手に持って齧り付く。


「うーん、あっちの世界のよりやっぱり甘くない。けど、これは絶対にリンゴだわ。」


立ち上がって腰のポーチから小さめのノートを取り出す。


「この世界に来てもう5年か。」


❖                       ❖


5年前、私は突然異世界に飛ばされた。理由はわからない。(予想はつくけど⋯。)ただ、気づいたらそこにいたのだ。


『⋯。』


そこには私だけではなく、学生みたいな子も数人いて、でっぷりと肥えたおじさんや司祭様みたいな異世界ファンタジーお馴染みの面々に囲まれて何かの説明を受けていて。私は完全に蚊帳の外だった。


『オバサンは土いじりでもしてたら?』

『ヒドイよそれ、でも似合いそう。』


そして一瞬で国外追放されてしまった。暗い森の中に。1人だけで。


『ふぇ、こんなしょうもないことが実際にあるんだ。』


普通だったらそこで絶望するだろうが、なんせ私の学生時代は左目と右腕に何かを宿す黒歴史。


『学生時代に磨いたスキル"サバイバルの鬼"を解放する日がくるなんてね。いゃ、相変わらずダサい名前。ってわー!!もうあの頃の痛い記憶が蘇っ』 


そして私はたくましく自然界で生き始めた。


『え、これってたんぽぽ?こっちの世界でもあるんだー。』

『この草たんぽぽって言うの?』

『そうだぞ坊や。草じゃなくてお花だ。』

『へー。』


私は行った先々の村で、泊まった礼に子供たちに勉強を教えていった。


『いいか?ゴ【自主規制】が現れても焦ることはない。なんせ蝶々と同じ虫だからね。』

『いや、怖がってるのそっちでしょ。』

『ギャァァァ飛んだ!!!』



そんな旅の途中で私は魔王に会った。


『お前の噂は魔族領でも聞く。無名の動植物に名を授ける乙女。』

『キャッ、乙女って言われたよ!!この世界来たばっかの頃は三十路のオバサンって言われたのに。』

『⋯、お前、苦労したのだな。』


三十路やオバサンの意味を理解していないはずの魔王から、とてつもない同情の込められた眼差しをむけられる。⋯⋯やめてくれ、なんか悲しくなるから。


まぁとにかく、それから私は、初めてこの世界の常識を叩き込まれた。勉強量が尋常じゃなくて凄く大変だったけど、何か地味に元の世界に似てるのもあったから、勉強してて飽きなかった。


『ねぇ!つぎは!!』

『喉が疲れた。休む。』

『えー?!じゃあハチミツだね。』

『その顔、何を考えている。』

『いつもお世話になってるし、ちょっと養蜂していた村に心当たりあるから行ってくるよ。お礼がしたい。』

『⋯、我も行く。』

『え?』


そして仲間に魔王が加わった。


❖                       ❖


「この世界はね、元の世界の物+魔力によって独自進化したものがあるんだよね。魔鉱石とか、魔物とか。」


魔力があるから魔法が発達して、代わりに科学が停滞している世界。


「水回りはそういう種類スライムに全てお任せ、あっちでもこれは欲しかったかも。」


初めてお皿を洗っているのを見たときは驚いた。キッチンの現代で言うと排水溝みたいなところにスライムが入っていて、ジャガイモの皮やら何やらをムシャムシャしていたのだから。


「よし!次はどこへ行く?砂漠は無いの?砂漠!!」

「砂漠⋯。確か大陸の西の方にあるぞ。」

「今いるところの真逆じゃん!!まぁいっか。時間だけはたくさんあるし。」

「本当に貴様は元気だな。」



魔力に満ちているけれど、その魔力を使える人は平民にはほとんどいない。何かを仲介すれば使えるけれど、才がなければパッとは使えない。


「魔法使いの国(大陸の東側にある)なら、平民も魔法を使えるぞ。」

「それってその国に魔法が使える人達が集まってるから自然とその子供も使えるだけじゃないの?」

「お前、いつもはそうには見えないが、落ち着けば頭の回転が速いな。常々思うが伴侶にほしいくらいだ。」

「え?」

「冗談だと思うか?」

「わかんない。」



この世界にも精霊は存在する。

極稀に彼らの力を借りれる人物が現れる。その力を使い、特別な魔法を行使する人を、世間は精霊術師とか呼んだりするらしい。


「力を借りれる人って、精霊にめっちゃ懐かれやすい体質の人だよね。」

「そうだが。」

「うちらの息子、絶対それじゃない?」

「⋯、異世界の人間の血と、魔王の血を受け継ぐ個体だ。何があってもおかしくはないだろう。」

「もー、息子自慢なのに全然そうは聞こえないよ。もっと感情を前面に出して!!」

「⋯。」



そして迷宮という存在も誕生してしまった。


「うちの子、天才過ぎない!?」

「やりたいことをやらせてやれば良いだろう。」

「いや、そうだけどさ、行く先々で迷宮創るとか思わないじゃん!?」

「ママ〜、闇の精霊と仲良くなったよ〜!!」

「闇の精霊か、古い神話なら確か理の神の眷属だった筈だ。」

「すご~い!!パパ、物知り!!」


次はどこへ行こうか。

一人で考えていたはずのそれを、いつの間にか、2人で話していて、今では3人で話すようになった。


(異世界に来れて、本当に良かった。)


彼女は、すやすやと眠る愛しい存在を優しく撫でた。

健やかに成長しますようにと願いを込めて。


「あなたが陽だまりのような暖かな光に包まれますように。」


彼女らは、歴史書にこそ名が残ったりはしなかったが、世界中に旅の足跡が残っている。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

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