第4話 俺の好感度が少しだけ上がったらしい
「へぇ、じゃあポルカ君は記憶が無くなっちゃったんだ」
すっかり綺麗になった1階の事務所スペース、4人ほどが座れるダイニングテーブルには美味しそうな料理が並んでいた。きのことうさぎ肉のシチュー、焼きたてのパンにはたっぷりの胡桃が入っていたし、栄養満点のサラダには焦がしたベーコンとチーズがトッピングされていていかにも男の子が好きそうな感じだ。
「はい、なんか急にこう記憶がないみたいな感じ。覚えているのは学園を追放されて勘当されたことだけです」
「そっか、でも勘当されたんじゃ仕方ないわよね。この様子だと親御さんは探しにもきていないようだし……悲しいけれどそれが現実なのかもね」
クロリナはパンにたっぷりのバターを塗って俺に寄越した。
「ありがとうございます」
「いいのいいの、ほらお掃除してくれたでしょ? そのお礼。明日からは私の弟子としてもっと働いてもらうんだし」
「あの、弟子って何するんです?」
「うーん、そうねぇ。探偵の雑用かしら? っていっても、私はまだこの事務所を建てたばかりだから街の掲示板で依頼を探してこなす感じなんだけど……。落とし物探しから人探しまで」
「なるほど……?」
クロリナがカリカリのパンを頬張り、豪快にシチューを飲み込んだ。彼女の傍らにはビールのようなものが木のジョッキに注がれている。
「あの、まだ18ですよね? お酒」
「え? エールは確かにお酒だけどお酒は16歳からよ? そんなことも忘れちゃったの?」
そう言って、彼女はぐいぐいとエールを飲む。上下する喉がなんだかセクシーでドキドキしたが、俺は酒を飲んだことがないので遠慮することにした。
美味しいしシチューとパン、サラダも野菜が新鮮でみずみずしい。ドレッシングがシンプルなのもかなりポイントが高い。
俺があまりにもがっつくので、クロリナはふっと吹き出した。
「なんか、そうやっていっぱい食べているの可愛いわね。自分の料理を食べてもらうのってこんなに嬉しかったっけ」
彼女はなんだか含みのある言い方をして、俺にシチューのおかわりをくれた。
「あの、そういえばクロリナさんご家族は?」
「うーん、そうね。私にもいたわよ。家族」
「なんか、すみません」
「いいのよ。でも仲良くしましょう? 私たち勘当されたもの同士なんだから」
「それって……」
俺が質問を続けようとすると、彼女は人差し指を唇にあてて首を横に振った。どうやらこれ以上は聞いてはいけないらしい。
「質問しすぎないでよ。ポルカ君」
「すみません……」
「いいのよ、わかってくれれば。それに君も探偵の弟子なんだからなんでも聞かないで自分で調べたり察したり……洞察力を磨いてちょうだい」
「わかりました……」
「期待してるわ。今日の仕事っぷりでかなりね。さ、残さず食べてちょうだいね」
俺はどうやら彼女に期待されているらしい。
探偵なんてやったこともないし、そもそもこの世界について知らないことが多すぎる。あのゲームには、義務デイリーをやるくらいであまり触れてこなかったし……。
けれど、美人に期待されちゃ頑張るしかないよな! 俺は不運続きだったが、クロリナさんに会えたのはかなりの幸運だったのかもしれない。
「そうだ、夜のお風呂は一緒に入る?」
彼女は悪戯っぽく笑って俺を揶揄った。




