第11話 猫捜査3日目 発見
城のゴミ捨て場は割とすぐに見つかった。というのも城壁をぐるっと回るように探すとすぐに汚らしい場所があるからだ。下水が近いのか薄暗く、嫌な匂いが立ち込めていてスラム街にでもいそうなホームレスが座っていたりする。
「にいちゃん、こんなとこ来ちゃいけないよ」
ホームレスの男性が俺に声を変えてきた。彼は痩せこけていて、ボロボロの布を身に纏っているだけのシンプルな格好だった。年齢は四十代くらいだろうか。
「この辺で猫を探してまして」
「あぁ、猫か。確かに、この辺は猫が集まってるよ。どんな子だい?」
「白い体に手足だけ靴下を履いたように黒く、鼻の周りにぶちがある子です」
「あぁ、その子ならほとんど毎日ここへくるよ。ここは猫たちの餌場でね。いや、餌場って言っても誰かが餌をやっているわけじゃなく、ここに毎日残飯が捨てられるからだ」
「ここにはよく?」
「あぁ、残飯目当ては猫だけじゃないからな、クックックッ」
おっさんは悲しそうに笑うと、指差した。
「あっちによく猫たちが集まってるよ。そうだな、昼すぎと夜に残飯が捨てられるからその頃を待ってみな」
「ありがとうございます」
***
昼時、シェフの格好をした男が大きな木箱にたっぷりにいれた残飯を外にある大きなゴミ入れにばさっと入れた。おそらく、城の食堂から出た残飯だから量が半端ではない。しばらくすると猫たちが群がって残飯を食い漁る。
中には鳥や野犬もいた。
その中に、ルーお婆ちゃんの探している猫がいた。可哀想に、残飯を夢中で漁っている。俺はゆっくり近づいて、ミルクちゃんを掴もうとした。
「フギャー!」
ミルクちゃんは俺が触れた瞬間に飛び上がって俺を威嚇した。そして、俺の手を右左と避けていく。とんでもない瞬発力、さすが猫だ。
飼い猫だからもっとのんびりしているだろうとか、そんなふうに考えていた俺が甘かった。けれど、俺も馬鹿ではない。しっかり壁際にミルクちゃんを追い込んでいた。
昔、テレビで「爪切りを嫌がる猫ちゃんには洗濯ネット」という裏技を見たことがあった。といってもこの世界に洗濯ネットはなかったので事務所の二階にあったシルクの布袋を持ってきている。少し可哀想だけれど、この袋の中に入れれば洗濯ネットに入った時のように大人しくなるだろう。
「よし、大人しくしてね」
壁に追い込まれたミルクちゃん。毛を逆立てて、俺を威嚇している。けれど、そこは袋小路。ミルクちゃんに逃げ場はない。
俺の手がそっと彼女の体に伸びる。汚れグレーになった毛並み。この数日間で野良猫になり切ってしまっている。生きていたことは幸運だったが、元の環境に戻れるまで少し大変かもしれない。
「ふしゃー!」
ミルクちゃんは、袋小路に追い込まれ最後の抵抗とばかりに飛び上がると、俺の肩をバネに一気に飛び越える。そのまま、俺を飛び越して走り出した。
「まじかっ! まてっ!」
俺は身を翻して、駆け出すが、ミルクちゃんの姿は遠くなる。猫は思ったより足が早い。絶対に追いつけない。それに、こんな怖い思いをいてはここへはもう戻ってこないだろう。そしたら捜査はまた振り出しである。
「くそっ……早っ」
曲がり角をミルクちゃんが先に曲がる。その先は通りだからもう追いつけない。そう思ったが、猫の「ふぎゃっ」という悲鳴と、大きな影に俺はぶつかった。
「全く、猫のきもちもわからん小坊主が」
先ほど、ミルクちゃんの情報をくれたホームレスだった。ミルクちゃんは彼にしっかりと抱っこされ、不満げに唸っている。先ほどは彼が座っていたからわからなかったがかなりの大男でガタイがいい。
「ほらよ、その袋に入れてやれば大人しくなるさ」
「あの、ありがとうございます」
「いいってことよ。昔はよく人助けをしたもんだ」
「え?」
「俺ぁ、退役騎士でな。昔はよく人助けをしてたんだよ。まぁ、今はクビになってこのザマだ」
「あの……お礼をよければ」
「お礼? いいよ。猫とっつかまえただけだからよ。まぁ探偵さん、困ったことがあればここへきな。俺ぁこの辺のことには詳しいから力になってやれるかもしれん。まあ次はうまいもんでも持ってきてくれると助かる。グレインだ」
グレインさんはニヒルな笑いを浮かべ、ミルクちゃんをシルクの袋に入れて俺に抱かせた。ミルクちゃんは少しモゾモゾ嫌がっていたものの諦めて大人しくなった。
「申し遅れてすみません。クロリナ探偵事務所のポルカと言います。今は見習いですが」
グレインさんはボソッと「クロリナ」と呟いてから誤魔化すように俺の肩を叩き
「さっさと猫を届けてやんな」
と言った。俺はそれに違和感を覚えつつもグレインさんにもう一度お礼を言ってその場を後にした。




