第9話 猫捜索2日目 子供の機嫌取り
「あら、いいわよ。そうねぇ、というかお給料のこと決めていなかったけど10万ゴールドくらいでいいかしら?10万ゴールドって言うと大体若い子の初任給と同じくらいよ。多くのアパートの家賃が大体2万ゴールドだから……」
「いや、クロリナさん。それって俺たちが依頼料をちゃんと稼げたらですよね?」
「あ、そうだった。じゃあ貴方は依頼料分を折半にしましょうか」
「あの、あとここの事務所の名前を教えてほしくて」
「あ、言ってなかったわね。クロリナ探偵事務所よ」
クロリナは承認欲求が強いタイプらしい。まさか、自分の名前を事務所の名前にするとは。いや、でも探偵事務所とかってそういうパターン多かったっけ……? 俺は探偵もののゲームとか小説には詳しくないが、苗字+〇〇事務所ってパターンは結構見るような。
「はい、大体5000ゴールドあればいいわね。何に使うの?」
「あ〜、まぁ今回の依頼を進めるのに使う感じっすね」
「じゃあ、ちゃんと経費申請してね」
「わかりました」
「それはそうと、腹ごしらえをしてかなきゃね」
クロリナさんはテーブルに料理を並べていく。ふわふわで中にチーズが仕込まれたオムレツにサッパリした酸味のあるドレッシングがかかったサラダ、パンは近くのパン屋で買ってきたふわふわのスクエアブレッドで、それをちぎってつけるためのスープ。
「おぉ、うまそう」
「美味しいわよ。そうそう、私は今日から別の依頼で動くからもし夜遅いようだったら一本奥の路地に美味しいダイナーがあるからそこでテイクアウトするのをお勧めするわ」
「そうっすか。依頼ってどんな?」
「浮気調査よ。しかも上級貴族の奥様からの依頼でね。身入りがいいわよ」
やっぱりである。
とはいえ、身入りがいいのであれば俺の生活にも関わってくるのでラッキーな案件だろうって。
「いただきます」
手を合わせて挨拶をしてからオムレツにナイフを入れる。ふわとろの卵からチーズがとろりと溢れ出し、トマトソースと混ざり合う。そのままでは食べにくいのでパンで掬うようにして乗っけると勢いよく口に入れる。
口の中であつあつの卵とチーズがとろけ、トマトの酸味とパンの甘みが調和する。飲み込んだ後はサラダで口をサッパリとさせ、ちぎったパンをとろっとしたコーンスープにディップして食べれば甘くて濃厚な美味しさが襲ってくる。
「ほんと、男の子ってよく食べるわよねぇ」
「クロリナさんも年齢そんなに変わらないじゃないですか」
「そうだけど……というか、ポルカ君って私と暮らしているのにすごくナチュラルよね」
「え? どういう意味です?」
「だって、高校生の男の子が女の人と二人暮らし……なんてもっと驚きとかドキドキの連続じゃない? それとも……私ってそんなに魅力なかった?」
正直にいうとクロリナさんは魅力たっぷりである。まず、顔がいい。アニメヒロインのような圧倒的な美人だけど可愛さのあるピンク色の瞳。それから、18歳にしては豊かすぎる胸元と細いのにぐっと曲線を描いている腰元。
どれを取ってみても大体の男子が好きなものを彼女は全部持っている。
無論、俺だって目が奪われることがあるが……
「いや、その」
「私、魅力ない……?」
「あ、いやそういうことじゃなくて」
「え?」
「俺、姉貴がいて……。その女性と一緒に生活することにはちょっと慣れているというか。姉貴も下着をほっぽらかすし、俺には気を使わないタイプというか」
「そうなの? 確かにお家にお姉さまがいれば女性の下着やあれこれに見慣れていてもおかしくないわね」
ちょっと残念、というようにクロリナは肩をすくめると暖かいスープに口をつけた。
***
「あら、こんにちは。今日も猫ちゃん探しですか?」
「こんちには、はい。今日もそうですね」
あのワッフル屋のお姉さんと話しながら、俺は子供たちを待った。ファーラと子分二人である。
「あ、そうだ。これから子供たちと待ち合わせしていて多分ワッフルを頼みますから準備だけお願いしても?」
「本当ですか! 一つ5ゴールドです。やったぁ、本当に買いに来てくれるなんて……ありがとう」
ワッフルの甘い匂いがたちこめてきた頃、噴水広場に子供たちが現れた。ファーラは俺をいち早く見つけるとこちらへ駆け寄ってくる。
「あら、探偵さん。それで例のものは持ってきたの?」
「あぁ、今彼女に焼いてもらっているところだ。一人ずつ、好きなトッピングを彼女に伝えてくれ」
俺がワッフルの出店を指差すと、店員の女の子が子供たちに優しく手を振った。
「ほんと? 私、焼きたてのワッフルなんて久しぶりよ!」
「俺も!」
「俺も!」
子供たちはワッフル屋の出店に駆け寄ると好き放題トッピングを伝えていく。季節のフルーツやアイスクリーム、子分の一人はおかず系のオーダーをしていた。
結局、彼らの追加トッピングの料金もあって30ゴールド近く飛んだが、問題はない。
「お兄さんもいかがです?」
「あ〜、ありがとう。一つプレーンを頂こうかな」
「ありがとうございます」
ほかほかでメープルシロップをたっぷりかけられたワッフルを受け取り、子供たちが座っているベンチに行ってかぶりつく。バターの芳醇な香りが鼻をぬけ、香ばしさと甘さで心が満たされていく。
「美味しいわ」
「ちゃんと歯磨きしろよ」
「わかってるわよ」
西洋のお人形みたいな三人は美味しそうにワッフルにかぶりついている。その姿がちょっと可愛くて俺も和む。前の世界にいた頃はこんなコミュニケーションをとったことがなかったから。
「んで、食べながらでいいから俺の任務の内容を聞いてくれ」
俺は、猫探しの依頼について彼女たちに話した。子供たちは馬鹿にするでもなく真剣に俺の話を聞き終えると三人で顔を見合わせる。
「猫ちゃんなら、たまに公園とかで見るけど……そんなに特徴的な子はみたことがないわね。でも、学校が終わってからの自由時間で一緒に探してあげることはできると思うわ」
「それもいいが、クラスの子で猫を新しく拾った〜とか、そういう情報があれば教えてほしいかな」
ファーラの隣に座っていた子分Aが神妙そうな顔で俺に言った。
「あの、僕のお父様は城で料理人をしているんです。それでよくうちに帰ってくると、『今日もゴミ捨て場の猫どもをけちらした』って話しているんです。どうも、城の厨房の裏にあるゴミ捨て場に猫ちゃんが集まってるみたいで」
「あら、貴方のお父様あまりよろしくない趣味をもってらっしゃるのね。うちのパパに言いつけておくわ」
「ひぃ〜〜!」
子分Bがいつものこととばかりに他の二人を無視しながら俺に捕捉する。
「城の厨房……のゴミ捨て場は僕達でもいける場所にあって。っていうのも、ゴミの処理とかは民間人にやらせるから城壁の外にあるんです。だから……猫ちゃん等の溜まり場になっているのかも」
猫たちの溜まり場。
調べてみる価値がありそうだ。
「みんなありがとう。今日はもうすぐ17時だ」
「そうね。もし情報が集まったらどこにいけばいいかしら」
「そうだな。南通りにあるクロリナ探偵事務所だ。場所はこの辺」
「わかったわ。今日はありがとう、本当にいい取引だった。頑張りなさいよ」
ファーラはスカートを広げて西洋式のお辞儀をすると北通りの方へ走って行った。




