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プロローグ

「春樹! デイリー消化しておいて」


 朝9時、出社の準備をしている姉ちゃんが俺を乱暴に叩き起こした。ポスンと腹の上に重さを感じて目を開くと、布団越しに姉ちゃんのスマホが置かれていた。


「へいへい」


 高校生である俺は、もうしばらく学校に行っていない。


 ある日、俺は何の悪気もなく隣の席の女子に消しゴムを貸した。しかし運の悪いことに、その子がクラスのガキ大将的なやつと付き合っていたらしくその次の日から俺へのいじめが始まったのだ。

 男のいじめというのは暴力的で屈辱的、俺は素直に逃げる道を選ぶことにした。


 今考えてみると、俺の運の悪さは異常だ。

 担任は学年1番のハズレばっかりだったし、そういう担任の「的」にされることが多かった。何も悪いことしてないのに、クラスを引き締めるために誰かを吊し上げるその誰かに俺が選ばれる。

 かと思えば、修学旅行では人数の関係で仲良しグループとは組めずにくじ引きになり一軍に放り込まれたり、委員会や係のペアの女子が不登校で俺だけ仕事が倍になったり。

 いつだって俺が外れくじを引かされていたような気がする。


 というわけで無事引きこもりとなった俺は姉のソシャゲの義務デイリーを請け負っている。


「今日、飲み会で遅くなるからお金置いていった方がいい? 春樹、勉強くらいは頑張りなさいよ」

「午後バイトだからまかない食べてくるわ」

「わかった、鍵は閉めてもいいけどチェーンロックは開けといてね」


 姉弟二人で暮らしている俺たちの日常である。

 姉ちゃんが洗面所に行ったのを確認してからゲームスタートをタップする。このゲームはファンタジー要素強めな西洋ファンタジー学園を舞台にしていて、数々のイケメンキャラたちに有名俳優が声を当てている。


「意外とヒロインが可愛いんだよなぁ。UIがよくねぇけど」


 ゲームスタート、いい声が聞こえていつも通りボタンをタップしようとする。しかし、俺の指はいうことを聞かない。がっちり固まった木の枝みたいになって動かないのだ。


「あ、れ、え」


 声もスローに聞こえる。まるで、ドラマでみるキャラが死ぬ前の走馬灯みたいな感じだ。体が動かなくなって、叫ぼうにも声が出せない。スマホが滑り落ちて、意識が途絶えるみたいに目の前が真っ白になった。



***



次に瞼を開いた時、俺はびっくりして腰を抜かした。

目の前に広がっていたのは大きなロビー、シンデレラとかがダンスパーティーをしそうな感じだ。煌びやかな装飾のアンティーク品が並び、たくさんの花瓶には薔薇が生けられている。ギラギラのシャンデリアがいくつも垂れ下がり、周りの人たちは不思議そうに俺を見ている。


「おい、ポルカ。どうしたんよ? 腰なんか抜かしちゃって」


 そう言って俺(?)に手を差し伸べた少年は紫色の髪で、見慣れた制服を着ていた。白と金を基調にしたおしゃれな制服。

 姉ちゃんのスマホゲームでよくみた制服だった。


 ここ、ゲームの世界? 俺、まさかよくみる転生しちゃった系?


 と分かれば、目の前の光景に納得がいく。赤、黄、緑など現実ではありえない髪や瞳の色の人、見たことのない変な生き物を連れている人やイカつい眼帯をしている先生らしき人。


 ついに、今まで誰よりも運の悪かった俺が奇跡を起こしたらしい。異世界に転生転移するといえば大体主人公だし、この世界には可愛い女の子がいっぱいいる!

 

「あぁ、今までも悪運はこのためだったのか」


 俺の言葉にそばにいた友人らしき少年が不思議そうに顔をしかめた。その少年の顔をみたが、お世辞にもイケメンとはいえず名前も知らない。俺はどのキャラに転生したんだ? 早く確かめたいが、ロビーのような場所には人がたくさんいて、よくみると俺と二人の少年は人だかりの真ん中にいて、その向かい側には泣いている「ヒロイン」がいた。


 ヒロインの隣にはイケメンの男子。こちらを睨んでいる。俺は瞬時に嫌な予感を感じ取った。初めての転生で盛り上がっていたが、これは良くない場面じゃないか。しかも俺にとってはかなり、だ。


「ポルカ・フォルダウンとその一味。この子に嫌がらせをするように指示していたそうだな」


 と俺に話しかけたキャラは知っている。姉ちゃんの推し「会長」こと生徒会長だ。名前は知らない。完璧人間でちょっとクールな感じの見た目のメガネ野郎。姉ちゃんは、正統派主人公系よりも、こういう頭脳派キャラが好きらしい。


 いや、今そんなこと考えてる暇なくね?!


「えっと、ごめんなさい」


 必殺、とにかく謝る。というか、このゲームのデイリー消化(強化素材クエスト周回)以外をやったことがないのでストーリー展開が全くわからない。

 俺にわかるのは、目の前で泣いている子がゲームの「ヒロイン」で、その隣にいるのがメインキャラクターの一人「会長(ただし名前は知らない)」」だ。


「誤ってももう遅い。ポルカ・フォルダウン。君は、この学園を追放されフォルダウン家も勘当されることになる。フォルダウン先生は君を見捨てたということだよ」


 圧倒的ざまぁ展開である。


 多分、俺が転生してしまったポルカ・フォルダウンというのはヒロインとメインキャラをくっつけるための着火剤でしかないのだ。そして、俺がこんなに重い罰を受けるのはプレイヤーをスッキリさせるためだ。


「出ていけ! 出ていけ!」


 全校生徒からの出ていけコールが豪華なロビーに響いた。俺はトボトボと歩き出す。転生して30秒、俺は人生の崖っぷちに立たされたどころか一気に転落したのである。


 俺ってやっぱり、運が悪い。





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