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アン・シャーリーという名の、ちょっと様子がいい男子  作者: るきのるき


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56話 アン・シャーリー、ギルバートに溺愛される

 ギルバートは、俺のメガネもちゃんと探してこい、と言った。


 どうやら予備と思われる、フレームの形が昔っぽい、丸フチのメガネをかけている。


 白いドレス(ここでは、ワンピース程度の意味)をつけたまま、いくら寒くない季節とは言え、川遊びは楽しい場合とそうでない場合と、苦しい場合がある。


「メガネあるんだったら、自分で探せよ、水中のメガネ」と、おれは抗議した。


「やかましい!」


 ぶくぶく。


 おれは再び水中に潜った、というより潜らされた。


 息苦しくならない間は、真面目に探してみたんだけど、どうも川の流れと岩のすきまの関係で、なかなか見つからない。


「なんで、あんたは潜らないんだよ!」


「俺は色弱で、緑と赤の区別がうまくつかないんだよ! 今のメガネはその補正能力がないんだ」


 ぶくぶく。


 頭を押しつけられて、また潜る。このままでは死んでしまう。さすがにそこまでは行かないだろうけど、過去の経験では、おれはダイアナの物語の中では何回も死んでるからな。シャーロットタウンからアサシン免許持ってるダイアナのおばさんが来たときと、牛泥棒と間違えられたときと、その他もろもろ。


 これが原作準拠の物語なら、主人公補正によってアン・シャーリーは死なないだろうけど、なにしろここは架空の『赤毛のアン』の世界。原作よりもひどい目に会うことになっている。


 うす緑色の水中で、赤いフレーム以外の目立つ色がないメガネを探すのは難しい。


 おまけに、水の上からは、おれがどこにいるかは、白い服のため探しやすいようである。


 ギルバートはたくみに、リリちゃんの中型船を細かく動かして、おれが浮かび上がろうとするのを待ち構えている。そして、ぷはー、と息継ぎをするのは許してくれるけど、すぐに頭をおさえつけられて、ぶくぶく状態になる。


「逃げるなよ」


 逃げてねーっての。だいたいそれは、イケメンがヒロインを壁ドンするときに言う言葉だろ。


 しかし本当に見つからないな、メガネ。


「俺はお前が好きだ、アン」


 ぶくぶく。


 何たわけたこと言ってるんだよ、そんな要素どこにあるんだよ。あ、あるね。


 つまり、溺愛。


(だいぶ苦労しているようだね、アン・シャーリー)


 聞き慣れた声が脳内で響いた。


 緑色のなかで、ほんのり桜色で、ぐにゃぐにゃしていて、複数の触手がある。これはタコ…タコ型に変身した、いつものルキフェルだな。


(手伝ってくれるのか、ルキフェル。それから、プリシーは一緒じゃないんだな)


(あー、プリシーは汽水湖とか真水では長いこといられないんだよ。それより、わたしが湖で拾い集めたものをあげるよ。外海ほどではないけど、けっこう沈没した船とか、落とした積荷とかあるんだ)


 蓋のしまったジャム数十個、トウガラシの缶詰数十缶、おしゃれ女子の水遊び用の服、食べきれない大相撲チョコ、そして最後にギルバートのメガネ。


 リリちゃんは、去年の水遊びで使った服がどうして、と喜んだけど、もう成長してるから着られないな、保存状態がよくても。


 ジャムの蓋は、こんど学校に行ったら、水槽の中のプリシーに開けてもらおう。


「さすがアン・シャーリーだ、よくやった、もう俺には教えることは何もない」と、ギルバートは、ところどころに藻草がはさまってる、色弱用のメガネをかけて、後方腕組みおじさんのような感じで言った。


「で、わたしを好きだと言ったのは?」


「それは嘘。やる気を出してもらいたかっただけ」


 アンのモテ期は大学時代まで待たないといけないのである。

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