50話 アン・シャーリー、屋根から落ちないようにする
目が覚めると、おれは自分のベッドの上で、時間は初夏の朝だった。
今回は特別サービスですよ、と言って、上位管理者の人、にも見えるけどたぶんAIに、時間を巻き戻してもらったのである。
いつもはとりあえず、この世界の一日がだいたい終わって、神様に雑なお祈りをすると同時にセーブしてたんだけど、屋根から落ちる日の数日前から、たいした事件も起こらないから大丈夫だろうと油断してサボっていたのだった。
祈られなかった神の怒り、ということにすれば、アンが屋根から落ちるのは天罰、ということになる。
ルーティンで省略可能な、朝起きてからすることをしたあと(なおこの部分に叙述トリックはありません)、丘の上のダイアナの家に行く小道で、知っているような知らないような、アボンリーではついぞ見かけたことのないような、ゴスロリ入ってる服装の美少女に出会った。
「あいかわらず災難だね、アン・シャーリー」
「その声と姿は、思い出したよ、会ってるやん、めたん、じゃなくて堕天使のルキフェル。なんだよ、また説教か」
どうも、その姿のルキフェルには、「のだ」で語りたくなるのである。
「私のほうから、主治医のほうには連絡しておいたよ、携帯端末で。私も、カラスに変身して見守ってるからさ、次は屋根から落ちても痛いのはちょっとだけになるね。ねえ、ずんだもん、じゃなくて、アン・シャーリー、物語の強制イベントを回避するのは、いくら二次創作でも無理があるよ。本当なら怪我で動けない3週間の間に、二次創作者に何を書かせることができるの。原作者のモンゴメリも、書くの面倒くさくって飛ばしたっていうのに。物語クラブのみんなで海水浴? 温泉? 読者サービスのためにそこまでやる必要はないと思わない?」
「そういうことは作者に言ってくれよ。あっそうだ、ルキフェル、あんたの天使の羽根、貸してくれない? それ使うと、ふわっと落ちて、たいした怪我しないんじゃないかと思うんだよね」
えー、えー、えー? とか言いながら、ルキフェルは(たぶん親切心からじゃなくて、人の我欲を煽りたいからだと思う)、天使、ではなく堕天使の黒い、ふわっとした羽根を、可動部品のように外して俺に貸してくれた。
「いいねこれ。どのくらいの高さまで上昇できるのかな」
「私なら、天国の門すれすれまで行けるけど、ヒトの場合は、うーん……酸欠にならないレベルまでだと思いねえ。なお本番では貸さないよ」
「なんで!」
「新選組、池田屋事件の階段落ちのスタントマンみたいに、そこが一番の見せ場、のひとつだから。ヒトが落ちるのって、ハラハラするけど死なないことになってるので安心して楽しめるのよね」
おれは黒い羽根をつけて、ダイアナの家までだらだらと、ヒトが見ていそうなところでは50センチぐらい、白樺林では可能な限り高く飛びながら行った。
これ、商品化とかグッズにすると売れるかもしれないな。
現地では、桂枝雀に似たグリーンゲイブルズの主治医(ダイアナの妹が病気になったときの主治医とは違う。どうしてそうなのかは原作を読んでください)が、最新の救急車と医療スタッフとともに、屋根の反対側で控えていた。絶対わくわく・はらはらしていたと思う。
前回の展開どおりに、ジョーシー・パイが垣根わたりに成功すると、さて次は皆様お待ちかねの、アンの屋根わたりでござーい、という、天からの弁士の声が聞こえてきた。
おれは覚悟を決めて、屋根まで続くはしごに足をかけて上りはじめたんだけど、途中ではしごの踏み板が折れて落ち、ものすごく痛かった。
何なん、これ!




