(番外11)アン・シャーリー(の中の人)、謎部の女子高生と会話をする
近くの高校にある庵は、校舎から少し離れた窪地に立てられていて、かつては近くを小川を流れていたとは思えるんだけど、都内のこのあたりはずいぶん昔に暗渠になっているから、その面影はない。
「へえ、あんたがアン・シャーリーなんか」と、仮想世界のリンド夫人、現実世界では足が太い女子高生のレイチェルは言った。
「でかいね!」
おれを含む、同じ学校の5人、堕天使が正式な学生かどうかはともかくとして、は、仮想世界ではリリ伯爵令嬢の付き人であり、現実世界では目の下にクマがある以外は普通の女子大生であるミノワの誘いで、レイチェルに会うことにしたのだった。
「ふーん、ここが茶道部の部室か。こじんまりとしていいところだな。昔はもうすこしじめじめして、人もあまり住んでいないようなところだったのに、庵のまわりを除くと住宅になってるのね」と、堕天使のルキフェルは言った。
「築50年以上の古い家ばかりだけど、そこのお兄さんはいつごろの昔をしってるのよさ」と、レイチェルは言った。
「しかし、会ったそうそうに『でかいね!』はないだろ。レイチェルだってぶくぶくしてて足ふといブサイクじゃないか」
「おまけに髪も赤いし」と、レイチェルは続けた。
「これは赤じゃなくて金褐色なの。元がちょっと薄い白っぽかったんだけど、染色に失敗しちゃってさ。そんなことはどうでもいいだろ。人の容姿についてあれこれ言うのはやめようよ」
「そうだね、描写も面倒くさいし、次に話に出たときは、微妙に最初の設定と違ってるかもしれないよね」と、ルキフェルは言った。
そういうのは作者の腕次第じゃないかな。
「ここは畳が敷いてある別館……ていうことは、レイチェルは……柔道部?」
「あんたねえ、原作でもレイチェルが格闘技に強い、なんてエピソードは出てきてないよ。作者のモンゴメは、たぶんあんまり運動が得意じゃなかったんだね。当時の作家にはめずらしく」
「めずらしかったのか」と、おれは言った。
スポーツの得意な作家も、何人かいますけどね、コナン・ドイルとかデュマとか。あんまりアン・シリーズで、肉体で語り合うような描写が少ないのはそのせいかな。
おれは、運動はそこそこで、作者はぜんぜん駄目である、という難しい設定なので、おれが戦う場面を描くときには、作者は苦労するらしい。今のところ格闘や剣技が出てくる物語は、そんなに書いたことはないらしい。
*
レイチェルは、他の仮想世界のメンバーと比べると、体型・言動・住んでる家、じゃなくて部活の庵か、その他がそのまんま『赤毛のアン』のリンド夫人と同じなのでわかりやすい。女子高生であること以外を除けば。たぶん頭の後ろには、おれがジャイアント・キリングでぶつけた石によるコブもあるだろうけど、ギルバートと違って、特に確認することもないだろう。
床の間に座って、ハッカキセルで、プハーッと一服したレイチェルは、おれに聞いた。堕天使のルキフェルはハチワレ体型でおれの膝の上に乗り、案内してくれた偽ギルバートその他のメンバーは、畳の上でごろごろしている。
「で、なんの用だよ、アン・シャーリー、パフスリーブのおしゃれ服でも作って欲しいのか」
「作れるのかよ! ていうかこの部室ってなんの部なのよ」
「お前の想像力で考えてみな」
「えーと……畳が敷いてあるから……柔道部?」
本当は茶道部っぽかったので、わざと一回間違えてみるのである。
「……からのー、日本舞踊部……からのー、茶道部」
「なんかもっとすごいの考えられない? 宇宙心理探求会、みたいなの。それはともかく、ここが元茶道部なのは確かだけど、活動実績が認められなかったんで、私たちが乗っ取っちゃったんだ」
「活動実績?」
「茶道部は全国大会とかないじゃん。うちらはあるから。ほら、ここにみんなが作ったキルトその他の服飾」
「コスプレ部、ってことはないよね」
服飾関係で全国大会ってあったっけ。なんかあったような気がする。高校生軽音楽部大会みたいなの。なければ、その世界ではあることにしてしまえばいい、って、異世界ファンタジーの創作者が言っていた。ジャガイモとか、カツカレーとか、秘伝のタレを使ったシェフのこだわりハンバーグとか。
「リンド部だよ、正式名称は服飾部ってことにしてあるけど。私はキルト部門担当で、地方大会の賞もらってる」
レイチェルは携帯端末の手書きモードで、字を書いて教えてくれた。
『隣人部』
こう書いて「リンド部」らしい。昔流行った、謎部の一種だな。
一緒に来た、同じ大学の3人で、仮想世界のメンバーは………座卓の上で勉強してる! 黙勉。すこしは会話に参加しろよ、と思ったら、ハチワレ形態に再変身したルキフェルは、にゃーん、と鳴きながらレイチェルのところに行き、ひざに頭をあて、すりすりし始めた。




