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アン・シャーリーという名の、ちょっと様子がいい男子  作者: るきのるき


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(番外8)アン・シャーリー(の中の人)、学生食堂で伯爵令嬢とその従者に挨拶される

 昼食で混んでいた時間もすこし落ち着き、仮想世界ではアン・シャーリであるリアル世界のおれ、伯爵令嬢のリリちゃん(オリジナルキャラ)であるシナノさん、それにどちらの世界でも堕天使であるルーシーは学食を出て、古さでは定評のある旧校舎の、大きな樹のまわりに作られたおしゃれベンチに腰をかけた。


「姉に声をかけたので、しばらくお待ち下さい、なの」と、シナノさんは言った。


 シナノさんは地方出身で、家が旧地主ぐらいのそこそこいいところで、しゃべりかたもていねいでおっとりしていて、「なの」という語尾で話す。着ている服も含めて、お嬢様っぽいところは、仮想世界と同じく所作以外にはほとんど感じさせない。リリお嬢様は発言に過激なところもあったけど、それは「違う自分を演じてみたかった」から、とのことだった。高校時代は演劇部で、演出者の希望により過激な役を要求されたため、遠ざける子と慕う子が複数いたらしい。


 なんだろう。『熱いトタン屋根の上の猫』かな。


 しかし、姉の方はどうなんだろうな、と、数分待っていると、地味な要素に派手なアクセサリーをつけた、おしゃれっぽい子がやってきた。


 シナノさんのきょうだいだと言われなければ気づかないだろうけど、言われればそんな感じがする、ぐらいのキャラクター。


 田舎の子がなんとなく都会でおしゃれっぽくしている風情ではなく、都会の子が目立ちすぎないように高そうな服を着ている、みたいな。


「なんだー、こいつかよ」と、ミノワと名乗ったその子は、無礼ながらもおれになれなれしい挨拶をし、連れのルーシーが、にこ、っと笑いながら名乗りをあげると、ちょっと緊張して固くなった。


 今はルー子という女子だけど、男子のルーシー、つまりルキフェルだったら3歩ぐらい後ろへ下がったかもしれない。


 来る途中で食べていたと思われるサンドイッチの食べかすを口にしていても、ミノワは美人だったかもしれない。


 しれない、というのは、どうも美の基準が自分の中で狂っているような気がしてしかたないためである。


 ミノワは容姿よりも好奇心が強そうな、活発そうな、どちらかと言えば体育会系的にしきしまった体のせいで、普通体型のシナノさんがふっくりしてみえるぐらいの感じだった。


 顔は、目の下にクマがある以外はこんな感じ。


み の の み

  わ


 つまり、両耳に大きめのイヤリングをしていて、目はぱっちりとしていて、広角を意識的に上げており、強めな性格を感じさせた。


 あなたにも似たよう感じできる、と聞いてみたら、シナノさんもがんばってくれた。


シ ナ ナ シ

  ノ


 大魔神に変身する前の神像みたいだな。


「同じ大学のキミがアン・シャーリーだったとはねえ」と、ミノワが言った。


「大学は広いからね、探せば別のアン・シャーリーもいるんじゃないかな」と、おれも適当なことを言った。


 ゲームのシステムで、各キャラがどいう割り振れられているのは不明だけど、そんなに遠く、たとえば現実の沖縄とか北海道に住んでいる人に、アヴォンリーの村人が散らばっている、という可能性は高くないのかもしれない。


「けっこうミノワ、日に焼けてるんだね。スポーツとかしてんの?」と、ルシフェルであるルーシーは聞いた。


「週に2回くらいはこれ、かな」と、ミノワは棒を持つ形で、下から上にスイングした。


「ラクロス?」


「違うよ、ゴルフだよ。なんでラクロスなんてやらなきゃいけないんだ。これでも関東大会に出場したことあるよ」


 なお白色人種は日焼けして黒くなることはないので、外国人には屋外でやる日本のスポーツ選手はみんな黒人と思われているらしい。


 しかし、女子力高めの服と健康そうな生活にもかかわらず。


「目のクマ、目立つね」と、ルーシーは遠慮なく聞いた。


「これねえ、中学受験のときからあったから、もう取れないよ」


 妹という設定になっているシナノは、毎日16時間勉強する人にはみんなあるの、と言った。もちろん、おれにはそんなものはない。ミノワは、日本で一番勉強しなければいけない大学に行っているんだから無理もない。


「そうそう、そういえば今日はギルバートも紹介しておこうと思ったの」と、シナノは言ったので、おれはすこしぷるぷるした。


 ギルバートも同じ学校なのかよ。なんか、『赤毛のアン』の登場人物、リアルでもおれの周辺にいすぎたりしないか。ルビー・ギルスだったら北海道に住んでてもいいと思いませんか。別にリアルで会う必要はないわけだし。


「今日でなければだめかな」


「別にいつでもいいよ、いつも決まった時間に決まったところにいるから。通知とかは送ってもほぼ見ないけど」と、ミノワは言った。


 リアルのおれなら、ひょっとしてあの、ポストパンクのドラマーみたいなやつに勝てるかもしれないと思ったので、おれは覚悟を決めた。


「あ、モバイルは対面の前にあずかっておくよ」と、ルーシーは言った。


     *


 歴史を感じさせる、一部レンガ作りが残っている旧・旧校舎は4階建てくらいで、それより高くする気はないらしい。その代わりに地下が7階ぐらいまで拡張されていて、拡張というより増築なので、通路がわかりにくくなっている。歩いているとときどき、鬼が鞭で、ピシーッ、という音が聞こえたり、亡者が鞭打たれて、ひぃぃぃ、という声も聞こえたりする。これは環境音なのであまり気にしないで、とミノワはいうけど、シナノとおれははじめていくところなのでびくびくしている。ルーシーは、そうそう、東洋風の裁定の場はこんな感じだったっけ、わたしの遊び仲間のエンちゃん、今どうしてるかなあ、とか言って楽しんでる。


 エンちゃん、つまり閻魔大王。


 地下3階の半分ぐらいが学習室で、部屋は暗く、シールドが立てられたその仕切りの中には、ほどほどに強いLED電球があって、それが各人の勉強している後ろ姿の影を濃くしている。まだ午後もさほど過ぎていないのに、異常な暗さと静寂が、その空間にはあった。


「ここが学習地獄!」と、ミノワは大きな声で言った。大声を出してもその程度ではびくともしない集中力で、部屋の2/3ぐらいは埋まっている学生は下を向いて作業をしていた。

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