47話 アン・シャーリー、牛泥棒に出会う
それからちょくちょく、アン・シャーリーとダイアナは一緒に、夜鳴きそば屋を呼び、そば以外の世界各地のヌードルを食べた。おいしいのもあればそうでないのもあり、知らないもののほうが多かった。
月のない、ある夜。いやここは、ある月のない夜、のほうがいいのか。とにかくそういうのはあとで考えるとして、とりあえず暗い夜だと思いねえ。
丘の上のダイアナの家は灯が消えていて、もうみんな寝静まった頃だろうか。基本的に、アヴォンリーの住民は夜が早い。そのかわり日がのぼるとすぐに農作業で、子供は、親が働いているのにごろごろ家で寝ているわけにもいかないから、その手伝いをする。夜ふかしは学校に行ってて予習・復習をする子供か、夜中にならないとできない作業をする人間である。
アンはひとりで暗い道を、暗い道をひとりで、のほうがいいかな、夜鳴きヌードル屋との待ち合わせの場所・時間へ向かって急ぐことにした。その途中で違和感を感じたので、アンは身を伏せ、背中に背負った散弾銃を持ち替えると、違和感の元である大きな影に近づいた。
巨大な影が3つと、おとなほどの大きさの影が2つ。そして、もうもう、という声。誰がどう見ても牛泥棒である。
アンは助けを呼ぼうと思い、散弾銃を空に向けて撃つと、銃声は思ったよりけっこう大きかったので、ヒトほどの大きさの影は立ち止まり、ウシほどの大きさの影は体を震わせた。
「命が惜しかったら、その盗んだものを置いていけ」と、アンは言った。
牛泥棒たちは蜘蛛の子を散らすように逃げ去り、あとに3頭のウシが残されたので、アンはウシを引き連れて駐在所に報告しようとした。しかし町の大通りは大勢の人間がおり、なにか騒がしく、アンを見つけると集まって銃を向けた。
「動くな、この牛泥棒」
ええええー、とアンは思った。
「いやこれは、わたしが牛泥棒から取り返してきたんだけど」
「おまけに、バリーさんの一家を皆殺しにして」と、これは聞き覚えのある、バリー家で手伝いをしている女性の声だった。
アンは小柄な体を生かして、群衆をすり抜け、ダイアナのいる家まで走り、「立入禁止」のロープを越えて、家の中に入った。
玄関のところで倒れてるバリーおじさん。
台所で血まみれになっているバリーおばさん。
居間のソファーで息が絶えている妹のミニー・メイ。
そして、自室で眠ったように、ただし息をしていないダイアナ。
*
アンは早朝、村人の総意の上でリンチに会い、町外れの大きな樹に首と体ををつられた。朝日に照らされて、その赤毛の髪と緑の服は幻影の最後のかけらのように光った。
*
「なんでおれが殺されちゃうんだよ!」と、おれはダイアナに怒った。
場所は学校の屋外で、かつては物置小屋として使われていた場所である。
そこをおれとダイアナ、それに物語クラブのメンバーは、外見は女子だけど中身、つまりリアル世界ではみんな男子ね、こっそり改装してクラブの秘密基地にしていたのだった。
「ダイアナは、いつも話に詰まっちゃうと皆殺しにしちゃうんだよねー」と、この物語のリアルの中でも死んでしまうルビー・ギルズが言った。
「オレとうちの一家だって殺されるんだからそこらへんはいいだろ」と、ダイアナは言った。
「で、真犯人は? その目的とか動機は?」と、キャラ設定およびプロットにはうるさいジェーンが聞いた。
「そんなの考えるの、もう少しあとの時代のミステリー作家のすることだって。それにリアルの今は、犯行に動機なんかいらない、ってのが主流だから」
そうなの? 最近のミステリー作家にくわしい人がいたら教えて。あいつは悪い奴だったから殺した、みたいな、東野圭吾とか、異世界ファンタジーの魔王みたいな感じで、殺人の被害者に殺される理由がない、ってのは……ありうるかな。
物語のメインは、被害者の心情ではなくて加害者の気持ちの動きだからねえ。異世界ファンタジーの勇者が、なぜ魔王を殺さなければならないのか、なんてことはあまり考えないし。
とりあえず、おれとダイアナはまだ生きているので安心してください。
「次は私を殺してみて」と、ルビーは言うんだけど、オリジナル作者のモンゴメリはひどい作家だと思う。




