44話 アン・シャーリー、夜鳴きそば屋と世間話をする
「まったく、なんか月待たせたと思ってるんだよ、おれのほうはAIだから、たいした問題じゃないけどさ」
「なんかごめん」
おれは、最近毎晩爆速でアヴォンリーの街道を通りぬける夜鳴きそば屋「外れ屋」の店主と久しぶりに会話をした。実生活では半年ぶりぐらい。
屋台、ではなく明らかにキッチンカーの外装で、馬が4頭、キッチンワゴンを引いていた。
「今の時代、道路は舗装されていない田舎道なのに、よく平気で流しのそばなんか売ってるね。ワゴン揺れたりしないか」
「そこらへんは超科学技術だから」と言って、店主はワゴンの中にあるボタンを押した。エンジン音と思えるものが出ると同時に、車輪の部分がすこし光って、地面との間に、人の手がはさまる程度の隙間ができた。
「実際に道を走る場合は、こんな感じで、直接地面と接触しないから、キッチン部分は振動しないのよ。いて、いて、いてて。なんで俺が説明真面目にやってるときに、エンジン止めちゃうんだよ」
「あ」
その装置に興味を持ったおれは、車輪の下に手を入れて説明していた親父のことを何も考えず、ボタンを再度押したら、ふわっと浮かんでいたワゴンは3センチほど下に下がり、親父の手をはさんでしまった。
「ふーん、AIでも痛感とかあるんだ」
「五感に相当するものがないと、ヒトと関係を持つのに不便だから。あまりひどいことをしないでもらいたいもんだな。非接触型のAI、つまりこのアン・シャーリー的空間を快適にするための、もっとキカイっぽいものは、ヒトの目に触れないように動いてはいるよ。はい、お待ちどうさま、ロブスターそば
「早いな!」
「このあたりじゃいいのが手に入らなくて、シャーロットタウンの市場まで行ってみたんだ。でもそこで扱ってるロブスターは、とても満足できるもんじゃないから、ノヴァスコシアまて行って、最上、とまでは言わないにしても、客に出して恥ずかしくない奴を、やっと買ってこれてさ。じゃあお勘定を」
こだわりの夜鳴きそば屋だった。
「やりとり、てきぱきしすぎだろ。もうすこし世間話とかしようよ。今日はだいぶ涼しくなったな」
「そう? いやこれはまだ涼しい、ってほどじゃないよ、肌寒いってほどでもないし、どちらかというと生ぬるい、かな。アヴォンリーの初夏から秋までの期間は短いからね。冷やし中華とかも食べる? 来週はもう食べられないよ」
「そんなんも売ってるんか。確かに、チャルメラ吹いてたし」
「うちの商売はそば屋というよりヌードル屋だから。看板にも書いてあるだろ」
確かに、ワゴンの胴体には「noodle」と中華風を思わせる字体でペンキが塗られており、日本語で縦書きに書いてあるのは……「わだぬん」……。? なんだこれは。
「ゆでめん」だよ。パスタも出せるよ。
この世界のAIは、ひらがな・カタカナが苦手らしい。




