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5話 アン・シャーリー、伯爵領にうっかり入り込む

 うす汚いガキどもは、おれ(アン・シャーリー)とマシューを乗せた馬車を止めて、伯爵の代理人として通行料を要求した。マシューは、やれやれ、と肩をすくめた。リアル(といっても仮想世界ですけど)で肩をすくめる人なんてはじめて出会った。


「ちょっと聞きたいんだけど、マシュー、『赤毛のアン』に伯爵なんて出てきたっけ」と、おれは小声で話しかけた。


「出てきてるじゃん。あんたが孤児院で一緒だったときに」と、マシューは小声で答えた。


 そうだね、たしかにいたね。第二章に。


 ただ、それはアン・シャーリーが勝手に想像しただけで、本当に貴族だったんだっけ。


 ちなみに、原文をおれが訳したものだと、こうなる。(※英文テキストは著作権フリーです)


     *


「こう考えると楽しいわけよね、となりに座ってた子が、本当は伯爵令嬢で、赤ちゃんのときに極悪な乳母の手で両親からさらわれて、その罪を乳母が告白する前に死んじゃった、みたいな」


     *


 このテキストで難物なのは「belted earl」で、アールってのは普通に伯爵という意味なんだけど(日本語として知られてるのは、紅茶の種類であるアール・グレイのアールね。あれはグレイ伯爵、チャールズ・グレイに由来している)、ベルテッドというのは、帯剣した王によって正式に叙爵された、という意味だな。


「伯爵領を通るなら、相分の見返りを要求する」と、ボスと思われる子どもは言った。


 相手の数はボスを含めて5人。いずれにしても雑魚キャラであることは間違いない。


「どうする。無視して通り過ぎちゃおうか」と、おれは提案した。


「いつもはこんなところで立ってたりしないんだけどねえ。運が悪かった」と、マシューは言った。


「この道路の右側は自由領で、左側は伯爵領なのね。でもって四辻のところにはあいつらが線を引いてる」


 赤土の道も、言われてみるとうっすらと、白い線がかつては引かれていたことがわかった。それに対して四辻のところは、大きく右のほうに円曲して出っぱった、新しい土地の区分線があった。どう考えてもあいつらの仕業である。


「けっこうややこしいのね。柏市と流山市の間の道路みたいな感じなの」


「言ってしまえばそういうことになる」と、おれのローカルなボケに、ハリセンでツッコミを入れることもなく、マシューは答え、ちょっと立ってくれないか、と、おれに言った。


 ボロい灰色の布地の下には茶褐色の木の板が座席として張られていて、それを持ち上げるとそこには金貨がぎっしり敷き詰められていて、二挺のショットガンが金貨の上に置かれていた。


「すごいなこれ。メキシコ革命の手伝いでもする気だったの」


 引き続きおれのボケにはびくともせず、マシューは金貨をわさ、とつかむと、子どもたちに向かってばらまいた。


「さあ、よい子のみんな、通行税を支払うぞー」


 あ、これはそういう話なんだな、と、おれも納得して、爺さんの手伝いをした。


 金貨は夕陽の下できらきらと輝き、実に派手な散財をしているな、という気分にひたるには十分だった。


「それー、まずは天人の舞い、次はお染久松比翼投げー」


 マシューさん、ノリノリである。

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