34話 アン・シャーリー、再び物語の構造に言及する
スペンサー夫人の家へ行くためにマリラがおれたちに用意したのは、駅からグリーン・ゲイブルズへの道をたどったのとは違う馬と違う馬車で、1頭立てのバギーと呼ばれるものである。
荷物はあまり載せられず、小回りが効いて乗り心地がいい。
物語の中の世界と同じく、舗装されていないように見える、赤くて天気がいい日には赤土が舞う道路にもかかわらず、ガタガタすることはない。ここらへんがバーチャル世界の便利なところである。
本道と比べると、乾いた馬糞が赤土に混じって舞う度合いがかなり大きい。これはあまり人が通らないところだという演出で、実際にはそんなに馬糞臭くもない。
実際に、乾いた馬糞がさほど、他の動物の糞と比べると臭くないということもあるんだろう。消化器官と食べてるものの違いかな。
おれたちが馬車に乗ると、馬小屋から出てきた黒猫が、にゃー、と言いながらやってきて、当然のことのように、おれとマリラが座っている席の間におさまった。
ウマとネコは、お互いに食べ物が異なるうえ、ウマが嫌がるネズミをネコが追い払うため、良好な関係にあるらしい。ウマは陽気のためすこし汗を流していて、ネコはくてー、としていた。そしてどちらの毛並みもなめらかそうに見えた。
ネコはおれの顔をみると、にゅーん、と鳴き、すりすりとおれの足に自分の顔をこすって匂いづけをした。
「ところで、どうしてスペンサー夫人はまず自分の家にアン・シャーリーを連れて行かなかったんだろう」と、おれはマリラに聞いた。
「さあねえ、そんなことは考えもしなかったよ」と、マリラはしらじらしく言った。
「あんた、中身はAIなんだろ、無理に頭の悪いふりをしなくたっていいと思うんだけど。それに実際のマリラも、いや実際にいるわけじゃないからその言いかたはおかしいな、実際の物語のマリラも、そんなに知力が低いわけじゃないし」
「うーん、物語展開の都合なんじゃないの。スペンサー夫人の家へアンが一緒に行く、一晩泊まって翌日マリラが迎えにいく、なにこの子、女の子じゃん、お願いしたのは男の子やん、さようなら、と物語が終わってしまう」
なんかしょっちゅう、作者に都合がよく話が進められるよう、さりげない工夫がしてあるようである。
すわっているおれの足のまわりを回っていた黒猫は、おれの持ち物の中にいいものを見付けたらしく、へにゃむーん、と、バッグを叩いてなにかを要求した。ああ、たぶんこっちに来るときに、おやつとして持って来た煮干しかな。
リアル世界では飲食物の持ち込みはどの国も制限が設けられているけど、架空世界ではそのようなことはないのである。スルメ、いかくん、かきピーなど、夜中に勉強するようなことになるのは、アン・シャーリーの設定としては普通なので、あまりお腹にたまらず、ものごとを考えるには適しているようなものを、おれは持ってきているのだった。
この世界の自由なところは、いくら消費しても翌日になるとその量が元に戻っているところだ。




